湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

夢で逢いましょう(和歌メモ)

古今和歌集」の巻第十二、恋歌二は、有名な夢オチの歌から始まる。

 

題しらず

 

小野小町

 

思ひつつ寝ればや人の見えつらむ夢と知りせば覚めざらましを

 

古今和歌集  552

 

彼のことを思っていたから、夢で会えたのだろうかと、小野小町は考えたらしい。

 

「夢と知りせば覚めざらましを(夢だとわかってたら、目覚めなかったのに)」というのだから、よほど素敵な逢瀬の夢だったのだろうか。

 

小野小町がこの歌を夢の恋人に送ったのかどうかは分からない。

 

恋人がこの歌を読んだなら、小町の自分への情の深さを知って、ますます愛しく思っただろうか。

 

それとも、思い詰めて夢に見るほど、長く逢いに行けずにいることを、遠回しに責められたと感じて、後ろめたく思っただろうか。

 

 

万葉集にも、思う相手を夢に見た女性の歌がある。

 

こちらは相手(夫)に夢の歌を送って、返歌をもらっている。

 

西海道節度使判官佐伯宿禰東人が妻、夫の君に贈れる歌一首

 

間無く恋ふれにかあらむ草まくら旅なる君が夢にし見ゆる

 

(あいだなく こうれにかあらむ くさまくら たびなるきみが ゆめにしみゆる)

 

万葉集 巻四 621

 

【語釈】

  • 西海道(さいかいどう、にしのみち)…九州とその周辺、および、そこを通る幹線道路のこと。
  • 節度使…中国古代の官職名で、軍を指揮する皇帝の使い。日本では、奈良時代に、軍団を強化するために置かれた臨時の官職(令外官)。
  • 判官…律令制における四等官、長官(かみ)・次官(すけ)・判官(じょう)・主典(さかん)のなかの、第三位の官。
  • 間無し…途切れない。絶え間がない。
  • 草枕…旅の枕。草を結んで作った枕。旅の枕詞。

 

【だいぶ怪しい意訳】

 

ねえ、あなたのことを四六時中、朝から晩までずーっと恋しく思っているからかしら。

 

夢の中で、遠い九州に出張中のあなたの姿が、ものすごくリアルに見えるの。あまりにも現実っぽくて、気味が悪いくらいなのよ。

 

もしかして私、透視能力に目覚めちゃったのかも。

 

ところで、夢の中で、あなたが変な女とイチャイチャしてるのを何回か見たんだけど、まさか現実でも同じことやってないでしょうね。

 

 

妻からの重い愛を受け取った夫の返歌には、どことなく焦りが見える気がする。

 

佐伯宿禰東人の和ふる歌一首

 

草まくら旅に久しくなりぬれば汝をこそおもへな恋ひそ吾妹

 

(くさまくら たびにひさしく なりぬれば なをこそおもえ なこいそわぎも)

 

万葉集 巻四 622

 

【怪しい意訳】

あー、いやその、だいぶ出張が長引いてるし、なんというか、まあ、付き合いとかいろいろあって…(ゴニョゴニョ)

 

あ、でも俺が愛してるのは君だけだから!

変な女っつーか、遊女みたいなのはまあ、営業で来てるっちゃ来てるけど、俺に限ってああいうのにはこれっぽっちも興味ないから!

 

だからさ、あんまりこう、四六時中思い詰めて透視、じゃなくて、俺の夢とか、もう見なくていいからね!

 

(こっちの様子が正確に見えちゃってるとか、俺の嫁、怖すぎだろ…)

 

 

佐伯宿禰東夫妻の歌は、万葉集にはこの二首しかないので、その後の夫婦仲がどうなったかは分からない。

 

(_ _).。o○

 

小野小町の夢語りの歌に戻る。

 

うたたねに恋しき人を見てしより夢てふものは頼み初めてき

 

(うたたねに こいしきひとを みてしより ゆめちょうものは たのみそめてき)

 

古今和歌集 553

 

【語釈】

  • 頼む…当てにする。頼りにする。期待する。

 

【若干怪しい意訳】

うとうとしてた時に、大好きなあの人の夢を見てから、夢なんていう不確かなものを、頼るようになったのよね。

 

だって現実には会えないし、お手紙ももらえないんだもの…

 

……

 

古今和歌集では、冒頭にあげた「思ひつつ寝ればや」(552)の次に、この歌が並んでいる。

 

内容的に、直接恋しい相手に向けて詠んだものではなく、自分が夢にこだわり続ける理由を、誰かに説明しているもののように思える。

 

この次の歌では、小野小町が夢を頼りにするときの具体的な手段が明かされる。

 

いとせめて恋しき時はむば玉の夜の衣を返してぞ着る

 

(いとせめて こいしきときは むばたまの よるのころもを かえしてぞきる)

 

古今和歌集 554

 

【語釈】

  • せめて…切実に。痛切に。
  • むばたま…ヒオウギの実。黒くて丸い。むばたま。うばたま。
  • むばたまの…夜にかかる枕詞。
  • 夜の衣…寝る時に着る着物。寝巻き。
  • かへす…裏返す。

 

【意訳】

どうしようもなく恋しい時は、パジャマを裏返しに着て寝るの。

 

……

 

裏返しのパジャマは、恋しい人の夢を見たい、もしくは自分の夢を相手に見せたいときの、おまじない的な意味合いがあるのだという。

 

万葉集に、その成功例が載っている。

 

吾妹子に恋ひて術なみ白たへの袖反ししは夢に見えきや

わぎもこに こいてすべなみ しろたえの そでかえししは ゆめにみえきや)

 

吾背子が袖反す夜の夢ならしまことも君に逢へりしごとし

(わがせこが そでかえすよの ゆめならし まこともきみに あえりしごとし)

 

万葉集  巻十一 2812、2813

 

【まとめて意訳】

 

「愛する君に会う手段がないから、寝巻きの袖を裏返しにして寝たんだ。そんな僕のことが、夢で見えたかな?」

 

「愛するあなたが、袖を裏返しにして寝た夜の夢なのでしょうね。本当にあなたに逢ったみたいにリアルな夢でしたよ」

 

………

 

上の二人の場合、男性が袖を裏返して寝ることで、女性が男性の夢を見ている。同じ夢を男性も見たのかどうかは分からない。

 

小野小町も、相手の夢を見たかっただけでなく、相手にも自分の夢を見せたかったのかもしれない。

 

袖だけでなく、寝巻き全体を大胆に裏返すやり方は、平安時代からの流行なのだろうか。

 

もしかすると、インフルエンサー小野小町が思いつて広めたのかもしれない。

 

 

【まとめて怪しい意訳】

 

夢って、どうして自分の思い通りにならないのかなあ。

 

前に一度だけ、大好きな人が出てくる、超リアルな夢を見たんだけど、あとちょっとで、彼の気持ちを確かめられるっていうところで、うっかり目が覚めちゃったのよ。

 

あれはほんと、悔しかったな。

夢だってわかってたら、彼が告ってくれるまで、意地でも目なんか覚まさなかったのに。

 

夢で告られても虚しいだけだって、そりゃあ少しは思うんだけど、あそこまでリアルな夢だと、現実の彼と無関係とは思えないのよね。

 

ほら、夢に見るのは、その相手が自分のことを強く思っているからだっていう説もあるでしょ?

 

あ、でも、そうだとすると、彼は私の夢を見まくってることになるのかな。だって毎晩、彼のことだけ考えて寝てるんだもの。

 

あの超リアルな夢を見た夜も、彼と私が結ばれる大長編の恋物語をひたすら妄想してるうちに、寝落ちしちゃったのよね。

 

私が頻繁に夢に出てきたから、彼も私のことが頭から離れなくなって、それで私の夢に出てきてくれたのだとしたら……

 

ふふふ、勝ち筋が見えてきたわ!

 

彼のことをひたすら思い続ける、この私の強大な妄想力さえあれば、この恋に必ず勝てる!

 

彼の夢に出まくって気持ちを引き付けて、こちらの夢に呼び込んで、今度こそ恋の告白をゲットするのよ!

 

そういえば、昔の恋人たちは、夢で会うためにパジャマの袖を裏返して願いを叶えたって、聞いたことがあったな。

 

袖だけ裏返すなんて半端なことじゃ、願いの圧が弱いと思う。

 

裏を表に。

夢を現実に。

無関心を執着心に。

 

私の思い(妄想)の力で、全部ひっくり返してやるわ!

 

 

(_ _).。o○

 

恒例になりつつある、和歌のAIイラストですが…

 

今回は、小野小町がパジャマを裏返しに着て寝る554の歌のイラスト化を依頼したところ、どう見ても恋人ではない、ヤバいものを呼び出している絵になりました。😱

 

サルバドール・ダリ風という指定がダメだったのかもしれません。

 

 

 

 

dakkimaru.hatenablog.com