雪の木にふりかかれりけるをよめる
貫之
冬ごもり思ひかけぬを木の間より花と見るまで雪ぞふりける
(ふゆごもり おもいかけぬを このまより はなとみるまで ゆきぞふりける)
古今和歌集 巻第六 冬 331
【若干踏み込んだ意訳】
冬の寒さを厭うて、ずっと家に引きこもって暮らしていたから、花のことなど思い出しもしなかったのに、ふと外を見てみたら、そこには奇跡のような素晴らしい光景があった。木と木の間から、桜の花びらかと思えてくるような様子で、雪が降っているのだ。見逃さずに見ることができて、本当によかった。
【英訳】
No. 331
Snowflakes come descending to
where the trees stand,
reminding me of cherry petals.
Kino Tsurayuki
【逆翻訳】
木立ちに雪片が舞い降りてくる。
それが私に桜の花びらを思い出させる。
【AIイラスト】
山寺にまうでたりけるによめる
宿りして春の山辺に寝たる夜は夢のうちにも花ぞ散りける
(やどりして はるのやまべに ねたるよは ゆめのうちにも はなぞちりける
)
古今和歌集 巻第二 春下117
【意訳】春の山に宿泊して眠った夜は、夢の中でも、花が散るのだった。
【英訳】
No. 117
Worshiping at a mountain temple
Sleeping on a vernal night,-
'twas in the mountains that I stayed-
the dreams I dreamed were bright
with raining flowers' cascade.
Ditto
【語釈】
'twas…it wasの短縮型。詩語、古語、または方言。
vernal…春のような。
【逆翻訳】
山寺で参拝
春の夜に眠りながら…
宿を取りし山中にて、私が見た夢は、降り注ぐ花々で光り輝いていた。
【AIイラスト】
題しらず
思ひつつ寝ればや人の見えつらむ夢と知りせば覚めざらましを
(おもいつつ ぬればやひとの みえつらむ ゆめとしりせば さめざらましを)
古今和歌集 巻第十二 恋歌二 552
【意訳】あの人を思いながら眠ったから、夢の中で会えたのかしら。夢だと分かっていたなら、目覚めた了解しなかったのに。
【英訳】
No. 552
Yearning for him I slept forlorn,
and in my dream I saw my love.
Had I but known it was a dream,
never should I have awaked at dawn.
Onono Komachi
【語釈】
forlorn…心細く。侘しく。
【逆翻訳】
彼を慕いながら寂しく眠っていたら、 夢の中で私の愛に出会った。それが夢だとわかっていたら、 決して夜明けに目覚めるべきではなかったのに。
【AIイラスト】
よみびとしらず
夕暮は雲のはたてに物ぞ思ふ天つ空なる人を恋ふとて
(ゆうぐれは くものはたてに ものぞおもう あまつそらなる ひとをこうとて)
古今和歌集 巻第十一 恋一 484
【意訳】夕暮れ時は、雲の果てをぼーっと眺めながら、物思いにふけっている。決して会うことの出来ない、空の彼方にいるような人を、恋い慕うために…
【英訳】
No. 484
I sadly muse at nightfall, facing
toward the farthest end of heaven,
yearning for her I can not meet.
Anon.
【逆翻訳】
夕暮れ時、 天国の最果てに向かって、私は悲しく思索する。決して会えない彼女への憧れを抱きながら。
【AIイラスト】