一昨日のこと。
山の日で介護施設がお休みだった息子(26歳・重度自閉症)が、亭主と一緒にスーパーに買い物に行き、帰ってきた途端、父親に向かって、
「はこ!」
と叫んだ。
「はこ!」
「箱って何だ」
「はこ!はこ!」
「だから箱が何だって?」
「はこ!」
「分からん!」
父親に訴えても通じないと思ったらしい息子は、台所に駆け込んで、冷蔵庫の前に立ち、そこでまた、「はこ!」叫んだ。
その様子を見て、私には「はこ」が何であるのか、ピンと来た。
「もしかして、スーパーでアイスクリーム買った? 箱入りの」
「買った」
「買うところ、見られてたでしょ」
「当然、全部チェックされとる」
「それだね」
亭主が冷凍庫を開けて、箱入りのミントアイスバーを一本出して息子に渡すと、ニコニコ顔で受け取って食べていた。
一本で満足したらしく、その後は「はこ!」と叫ぶこともなくなった。
アイス(クリーム)という名詞を、息子が知らないはずがない。
「アイス食べる?」と質問すれば、息子はちゃんと「食べる」と答えるのだ。
なのに、冷凍庫のアイスを食べたいと要求するのに、「アイス」と言わずに、「はこ」と言うのはなぜなのか。
息子は、他者に何かを要求するために発話する場合、その相手が意味を類推しやすいようにという配慮からか、自分なりに、関連性の強い単語を選んで文を作ろうとする。
息子の言葉のチョイスが独特すぎるため、周囲は相当頭をひねることになるのだけど、家族間だと結果的に伝達に成功することが多いので、息子は自分のやり方に自信を持ってしまっている。
↓最近の成功例(´・ω・`)
今回の「はこ」も、息子としては、父親に意志を伝えるために最適な選択をしたつもりなのだと思う。
息子の目の前で、父親が買い物カゴに入れたのは、「(アイスの入っている)はこ」だった。
もちろん息子の目的は、箱の中のアイスを手に入れて食べることだけれども、父親が直接手で触れたのは「はこ」であって「アイス」ではない。
つまり、父親に一番強く関連しているのは、「アイス」ではなく「はこ」であるのだから、「はこ」と言えば、父親は自分の求めるものが分かるはずだと、息子は確信していたのだろう。
実際には父親にはさっぱり伝わらず、傍で見ていた私が解読したわけだけど、結果的にアイスを手に入れられたので、息子の目論見は成功したことになる。
「はこ」じゃなくて「アイス」と言えば一発で伝わるのだということを、どうやったら息子に教えることができるのか。
状況の認知の仕方が、息子と私たちでは相当に違っているのは間違いない。その違いの谷間に橋をかける方法を、私はまだ見つけることができずにいる。