湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

ラノベかラノベ以外か

小説家になろう」サイトで読んだ作品の感想メモ。書籍化されている作品は、Amazonの書籍情報も貼り付ける。

 

 

「そして僕は聖女を裏切った」(長月おと 著)

 

読後に複雑な思いの残るファンタジー短編。

 

錬金術師である主人公の青年は、幼馴染の婚約者と結ばれる日を楽しみに地道に働いていたのだけど、ある時その婚約者に王命がくだり、命がけの魔王討伐に参加させられることになってしまった。

 

青年は引き止めることも、自分が一緒に行くことも叶わず、自らのスキルで渾身のポーションを作り上げて、それをお守りとして彼女に持たせて送り出す。

 

取り残された青年は、婚約者の無事を祈りながら、彼女を陰から支援するために、ひたすらポーションを作って待っていたけれど、凱旋した彼女は聖女と称えられ、その横には救国の勇者がいた。婚約者だった彼女は勇者に嫁ぐのだといって、取りすがろうとする青年を邪険に追い払うばかりだった。

 

最愛の女性に裏切られ、ゴミのように捨てられた青年は、失意の日々を送っていたけど、その後ポーションの素材を探していて行方不明となり、しばらくのちに死亡が発表された。

 

勇者夫婦には、かつて錬金術師の青年を裏切って捨てたという負い目があったのだけど、それは実は青年の命を守るために止むを得ず取った手段だった。青年が彼女に持たせたポーションは、秘宝に等しい性能を持つもので、魔王を討伐できたのも、そのポーションのおかげだった。

 

青年の錬金術師としての能力が世に知れてしまえば、青年は否応なしに政争に巻き込まれることになる。逆にポーションの性能を秘匿したとしても、今度は聖女である彼女を利用しようとする勢力によって、命を狙われるようになるのが目に見えていた。

 

最愛の人を危険に巻き込まないために彼女の選んだ道は、青年のポーションの効果を自分の力であると偽って聖女となり、同じ秘密を知る勇者と結婚して、青年との縁を切ることだった。けれども結局青年は命を失ってしまった。

 

その天罰なのか、彼女と勇者との子どもが、不治の病にかかってしまう。それを治すことができるのは、亡き青年のポーションだけなのだけど……

 

短い作品なので、ラストについては、書かずに置く。

 

どうあがいても結ばれない運命にある恋人同士が、苦しみながらもお互いの人生に納得して誠実に生きていくという、難しいテーマだったと思う。ハッピーエンドがお約束のようになっているラノベ界隈では、発表するのにも抵抗もあったのではと推測する。

 

読後、思い出した作品がある。

 

宮本輝「金繍」

錦繍

錦繍

 

 

 

平野啓一郎「マチネの終わりに」

マチネの終わりに(文庫版) (コルク)

マチネの終わりに(文庫版) (コルク)

 

 

どちらも、最愛の相手と一度は結ばれながら運命が食い違ってしまって別れてしまった、その後までを描いた物語だ。

 

別れた後に、女性のほうが別の男性との間に息子を持つところも一致していたはずだ。

 

宮本輝の「錦繍」は、もう四十年近くも前に読んだ作品なので細部が曖昧だけれど、生まれた息子は、恐らくはダウン症と思われる描写だった。その子の父親は教え子か何かの女性と不倫して、離婚に至ったと記憶している。

 

「マチネの終わりに」のほうの女性も、結婚相手との間に息子が生まれたものの、相手の不倫が理由で離婚することになる。

 

どちらの作品も、読後の気分はいいものではなかった。特に「マチネの終わりに」のほうは、横恋慕によって二人の仲を引き裂いた「悪者」がいたので、余計にすっきりしなかった。

 

けれども、そうして仲を引き裂かれた後になっても、二人の間にあった愛情が思わぬ形に変容して、その後の人生を築く礎となっていくことを、物語は描いていた。

 

勧善懲悪と「ざまぁ」とハッピーエンドが読者に求められ、喜ばれるのは、そういう物語が脳にとっては甘い食べ物だからだと思う。(たぶんそういう展開は脳にドーパミンとかセロトニンとかエンドルフィンとかが分泌されるのだろうと想像している。体感的に)

 

でも、文学って、それだけのものではないと思うのだ。ラノベあっても、ラノベでなくても。

 

 

「王都の外れの錬金術師  ハズレ職業だったので、のんびりお店経営致します」(yocco 著)

 

主人公のデイジーは、前世では、外れスキルを持って生まれたために親に捨てられ、早死にしてしまった女性だった。

 

今生では愛情深い両親の元に生まれたものの、またしても外れと言われる「錬金術」のスキルを授かってしまう。落胆したデイジーだけれど、両親の支えもあって、たった五歳で錬金術師としての道を極める覚悟を決める。

 

そこからは、スキルアップの快進撃や、大切な出会いの数々など、読むのが心地よい王道ラノベの定石を外さず進んでいく。

 

ただ暖かいばかりの世界ではなく、近隣諸国には戦争の気配があり、国内にも政治的に不穏な動きもあったりする。

 

それだけでなく、社会全体に、有用なスキルのみを重視して、生産性のない存在を忌み嫌う空気がある。そのために、ハズレスキルを授かった我が子を疎んだり、棄てたりする親が多いのだ。

 

デイジーは、幼少期に覚悟を決めて、未知の分野である錬金術スキルの研鑽を積んで、計り知れない効果と、それに付帯する富を生み出すことに成功する。それだけでなく、たった同じスキルを持ったために親や社会から爪弾きにされていた子どもたちを保護して育成し、才能を開花させていく。

 

たった十歳で起業家として独立したデイジーは、国王や、精霊王たちの支援や加護を受けて、スローライフを送りつつ、たぶん深い意味で国を救う存在になっていくのだろう。まだまだ連載が続くようなので、展開が楽しみだ。

 

 

「今度は絶対に邪魔しませんっ!」(空谷玲奈 著)

 

 

今度は絶対に邪魔しませんっ!

今度は絶対に邪魔しませんっ!

  • 作者:空谷 玲奈
  • 発売日: 2019/03/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

更新されるたびに、ドキドキしながら読みに行っている作品。

 

主人公のヴィオは、悲惨な運命を遂げたあと、その記憶を持ったまま、事が起きる前まで時間を巻き戻されてしまった貴族令嬢だ。

 

両親に愛されず、片思いの相手に執着依存し、恋敵となった義理の妹を憎悪して害そうとしたために捕らえられて罰せられたのだ。

 

ところが、なぜか時間が巻き戻り、人生をやり直すことになってしまう。今度は恋に執着せず、平穏な人生を選ぶつもりだったのに、周囲の状況はなかなかそれを許さない。

 

まず、ヴィオの両親が最低すぎた。

産みの母は、夫に全く顧みられないことに苦しみ、娘を男装させて夫にそっくりになるよう強要し、自由を許さないという虐待を働いた挙句、女性らしく成長した娘に関心を失い、さっさと早死にしてしまう。

 

愛人と別の家庭を持っていた父親は、母の死後、即座に屋敷に戻ったものの、ヴィオに愛情を向けることはなかった。

 

その一方で、愛人は正妻として迎えられ、その娘は大切に守られた。家族の晩餐ではヴィオは父親に存在を無視され、何か貶す材料があるときには一方的に罵られる。義妹は父親が姉に辛くあたっても全く気づかないらしく、両親の愛情を一身に受けた娘として、天真爛漫に振る舞う。

 

と、ここまでなら、よくある不遇な令嬢もののストーリーなのだけど、ヴィオの置かれている家庭内のハラスメント構造が不気味すぎて、ほとんどサイコホラーと化している。

 

まず、父親がヴィオを一方的に憎悪する理由がよくわからない。愛人を作って家庭を顧みなかったのだから、死んだ正妻を心の底から疎んじていたのは分かるけれども、彼が娘であるヴィオに向ける憎悪には、まるで自分を虐げた敵に対する復讐のような意図すら見え隠れして、一切の罪悪感がない。ヴィオに家族の団欒の場に来ることを強要しながら、徹底的に存在を無視するということを執拗に続けるあたりに、父親の歪んだ心理がうかがえる。前妻との間によほどのことがあったらしいことは分かるけれどと、ヴィオ視点ではそれがあまり見えないため、ひたすら薄気味悪い。

 

 

父の後妻となった愛人は、それに輪をかけて不気味である。彼女は夫のいいつけで、ヴィオとは一切コミュニケーションを取らないのだけど、夫が仕事で家を空けると、ヴィオの容姿に夫の姿を重ねて恋着するかのように、優しく絡みとろうとするかののうに迫ってくる。この後妻との二人きりのお茶会のあと、ヴィオはストレスのあまりバスルームで吐いていたけど、読んでいる方も相当に怖かった。

 

圧巻は義妹で、一切の悪意を持たない無邪気で優しい少女でありながら、彼女のあらゆる言動が、ヴィオの願うささやかな平穏を完膚なきまでに奪い去り、急所を毒槍で刺したような効果を引き起こしてしまうのだ。

 

小さな喜びを見つければ、間髪を入れずに悪気のない義妹に根こそぎ奪われ、希望を持たないことを決意すれば父親や義母によって丁寧に絶望を与えられるという、理不尽なエピソードが、まるで主人公のための自傷行為であるかのように繰り返されるので、この先どうなることかと思っていたけれども、さっき最新話を読んだら、やっと救いの見えそうな展開になっていた。

 

最終的にはハッピーエンドになるのだろうけど、2回分の人生で徹底的に痛めつけられた心が、無事であるはずもない。リハビリが大変だろうなと思う。ラノベと言えども、重い話は重いのだ。

 

というか、ラノベラノベ以外の境界線って、どのあたりにあるんだろう。定義が知りたいわけでもないけど、なんとなく気になった。

 

 

ハッピーエンドになることは条件の一つなんだろうけど、読みようによっては必ずしも主人公が「ハッピー」では終わらない作品も結構ある。恋人とゴールインしても、取り巻く社会が問題ありすぎて最低だったりとか。

 

軽く読める文体ということもありそうだけど、ラノベって、意外に難しい言葉が出てくるのだ。

 

膂力

四阿

破落戸

陞爵

 

こうした難読熟語がルビなしで出てる作品がたくさんあるので、結構鍛えられて学習した。

 

 

ラノベを多読することは、そんなにライトでもなかったりするのだけど、どうなんだろう。