湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

実装される誰かの生活

 

円城塔「リスを実装する」を読了。

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円城塔作品を読むのは初めて。

 

製造や運送に関する作業の多くが機械化され、あらゆる現場で人手を必要としなくなりつつある近未来で、その機械化をもたらした本人でありながら、それ故に仕事を失い続けている主人公が、自宅のコンピューターにリスを実装して、それを観察し続けている。

 

生き物を飼育するゲームアプリは、いろいろあるけど、このリスは、生き物らしい見た目を持たず、言語によってその行動が記述されるだけの存在である。

 

マークという名前のそのリスは、記憶媒体に向けて、いかにも現実のリスらしい自らの行動ログを、テキストデータとしてリアルタイムで書き出し続けていて、主人公の野実実(のみ みのる)は、そのテキストを読み続けている。

 

愛くるしいリスの生態を、リアルタイムで事細かにテキストデータとして表示されたとして、それを眺めるのは、果たして楽しいものだろうか。

 

と考えていて、どこの誰とも知れない、自分とは同じ次元に存在していない人物の人生を描写するテキストデータであるともいえる小説を読んでいる自分だって、似たようなことをしているじゃないかと思い当たった。

 

リスの生態をリアルタイムで綴るテキストを読み続ける主人公の物語(テキスト)を、私はこうして読みながら、自分のブログにそれについてのテキストを書いて公開し、それをまた、どなたかが読むかもしれなくて……

 

それにしても、この物語の主人公は、人間なんだろうか。もう居ないらしい妻と息子も、なんだかコンピューターのシステムの一部とかプログラムみたいに思える。ちゃんと読めばわかるのかも知れないけど、どうも私の理解が追いつかないみたいだ。

 

 

なんかそのうち、結婚の報告が「この度、妻を実装しました」みたいなことにならないかなと、ちょっと心配になった。