湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

今日の本棚(脳内系) 「あなたの脳のはなし 神経学者が解き明かす意識の謎」

「あなたの脳のはなし 神経学者が解き明かす意識の謎」(デイヴィッド・イーグルマン著)

 

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解離性人格障害離人症統合失調症の症状を考える手がかりを期待しつつ、第二章の「現実とは何か?」を読んだ。

 

残念ながら期待はあまり満たされなかったけれど、いろいろ考えているうちに、恐ろしい読み物だと感じるようになった。

 

 

エリン・サックスは南カリフォルニア大学法律学教授である。聡明で親切な彼女は、一六歳のときからときどき統合失調症の症状を経験している。統合失調症は脳の機能障害であり、そのせいで他人には聞こえない声が聞こえたり、他人には見えないものが見えたり、他人が自分の考えを読んでいると信じたりする。さいわい、投薬治療と毎週のセラピーのおかげで、エリンは二五年以上もロースクールで講義し、教えることができている。

 

私は彼女と大学で話をし、彼女が過去に体験した統合失調症の症例を聞かせてもらった。「家々が私と話をしているように感じました。おまえは特別だ。おまえはとくに悪い。悔い改めろ。止まれ。行け。言葉として聞こえるのではなく、頭のなかに突っ込まれた考えとして聞こえるのです。でも、それが自分の考えではなくて、家の考えだと分かっていました」

 

(中略)

 

そのような妄想から逃れたいま、あれはいったい何だったのかしらと言いながら、笑って肩をすくめる。

 

何だったのかというと、脳内の化学的アンバランスのせいであり、信号のパターンが微妙に変化したのだ。パターンがほんの少し変わるだけで、ありえない奇妙なことが展開する現実に閉じ込められてしまう。

 

統合失調症の症状が出ているとき、エリンは何かがおかしいとはけっして思わなかかった。

 

なぜか?

 

脳内化学物質の総和が語る物語を信じていたからだ。

 

(p89-90)

 

 

脳の中の化学物質……脳神経に影響を与える神経伝達物質とかだろう……の総和が変化するだけで、「現実」と信じているものが様変わりしてしまうということは、まさにその状態にある人が目の前にいても、なかなか信じられないものだ。

 

まして、そういうことが自分にも起きる可能性があるなどとは、具体的な証拠を突き付けられたって信じたくない気持ちになるのが普通だろう。

 

( _ _ ).。o○

 

 

話がちょっと飛ぶけれども、新型コロナウィルスの蔓延に関して、さまざまな陰謀論が囁かれ、時には喧伝されているということを、つい最近になって知った(自分がコロナの渦中にあるときはそれどころではなかったのだ)。

 

中でも驚いたのは、5Gの電波によるウィルス蔓延説や、新型コロナワクチンを使った陰謀論だ。

 

なんでも、ワクチンにナノマシンが仕込まれていて、体内に取り込まれたそれを5Gの電波によって操作して、接種者を破滅に導く……とか。

 

サイバーパンクの描き出すデストピアみたいな話だ。すごすぎる。

 

一体何をどうしたらそういう情報を「現実」と思えるようになるのか、かなり考えてみたけれども、さっぱり理解できなかった。

 

きっとそういう「現実」は、何かを合理的に理解するというような、通常の思考の筋道で確証に至るものではないのだろう。

 

現時点で最小のマイクロチップはダニ並みに小さいらしい。

けれども、それを大量に製造してワクチンに混入させるための設備投資、さらにそれを全世界で操作するための5G回線の徹底整備などを考えると、どう考えても現実的ではなさそうだ。陰謀の黒幕、どんだけの資金と権力を持っているのか。

 

ちなみに私は自分のiPhoneが4G以外の電波を受け取っているのを一度も見たことがない。

 

エリアマップを確認したところ、あいにく私の行動範囲は、5Gエリアからすっぽり外れているらしい。つまり陰謀圏外ということにもなる。

 

いいんだか悪いんだか。(´・ω・`)

 

それはともかく、「陰謀論」のようなものを「現実」として受け止める脳のなかでは、一体なにが起きているのかということは、とても気になるところだ。

 

陰謀論と脳内の状態について語る、興味深い記事があったので、一部引用してみる。

 

toyokeizai.net

 

 

陰謀論を信じやすい傾向と強く関連していた性格特性は、よく挙げられそうなものだった。(社会保障などの)給付金受給、自己中心的な衝動性、冷淡さ(独断的なインジャスティス・コレクター)、抑うつ的な気分や不安のレベルの高さ(年齢や環境によって制限を受けている不機嫌な人)などだ。

 

パーソナリティ障害を調べるための質問からは、もう1つの特性が浮かび上がってきた。それは、「サイコティシズム」と呼ばれる思考パターンだった。サイコティシズムは、統合失調症型パーソナリティ障害の中心的な側面であり、その特徴は「奇妙な信念、および魔術的思考」「妄想的思考」などだ。

 

やがては、科学者やセラピストが、現実から大きく外れた「大ウソ」の陰謀論を信じる人に、何かしらの診断をつけようとするだろう。いまのところ覚えておくべきなのは、人は心が乱れている時には、情報源を十分に吟味することなく、記事や見出しなどを他人に転送する可能性が高くなるということだと、ペニークックは言う。

 

サイコティシズム。

統合失調症型パーソナリティ障害。

 

どちらも初めて目にする用語だ(不勉強)。

 

www.msdmanuals.com

 

上の記事(MSDマニュアル家庭版)の「診断」についての箇所を引用。

 

統合失調型パーソナリティ障害の診断を下すには、患者は親密な関係に対して強い居心地の悪さを感じていて、そのような関係がほどんどなく、また奇妙な思考や行動を示している必要があります。また、以下の5つ以上もみられる必要があります。

 

・関係念慮
・奇妙な信念または魔術的思考
・歪んだ知覚
・奇妙な思考および発話
・疑念または妄想性思考
・不適切な感情または感情表現の少なさ
・奇妙、風変わり、または独特の行動や外見
・第1度近親者を除き、親しい友人や相談相手がいないこと
・慣れによって和らぐことがなく、主に妄想的恐怖に関連する過度の社交不安

 

また、症状は成人期早期までに始まっている必要があります。

統合失調型パーソナリティ障害は、似ていますが、より重度の症状を引き起こす統合失調症 と区別する必要があります。

 

 

きわめて孤独な精神状態にあって、知覚が歪み、過度の社会不安を抱える……

 

ちょっと想像しただけで、寒気がするほど苦しそうに思える。

十分なケアがなけれは、社会生活も日常生活もとてつもなく困難なのではなかろうか。

 

 

こういう状況の人の脳が陰謀論を「現実」と思うのは、目の前にリンゴがあるのを見て「目の前にリンゴがある」と思うのと同じくらい、自然な成り行きなのじゃなかろうか。

 

そしてたぶん、論理的な説得や事実の提示によって、その人の脳内の「現実」を覆するは、不可能に近い気がする。だって、インプットされる情報が、そもそも違っているのだから。

 

私はとりあえず陰謀論のようなものは信じないけれど、強い不安や苦痛に襲われているときであっても、自分の脳が「現実」と感じているものに歪みが全く起きないかと問われれば、そんな自信はないと答えるしかない。

 

なにしろ私は実際に新型コロナ肺炎で入院していた間ずっと、「自分は新型コロナ肺炎ではない」と信じていたのだ。

 

現実に酸素飽和度が下がっていって、寝返りしても息苦しいような状態だったのだから、合理的に考えるなら、自分は肺炎だと気がつくのが当たり前なのに、病院のスタッフが「肺炎です」と言わなかった(私が聞かなかったから)というだけの理由で、「肺炎じゃない」と思っていたのだ。

 

病室ではネットは使い放題で、いくらでも病状について検索できるにもかかわらず(実際調べまくっていた)、私の脳は「肺炎ではない」を「現実」と認識した。

 

陰謀論を信じる人と私との間にそれほどの違いはない、のかもしれない。