広河女王の歌二首
穂積皇子の孫女(めうまご)、上道王(かみつみちのおおきみ)の女(むすめ)なり
恋草を力車に七車積みて恋ふらく我が心から
(万葉集 4巻 694)
(こいぐさを ちからぐるまに ななぐるま つみてこうらく わがこころから)
【だいぶ盛った意訳】
恋すると生えてくる恋草というものがあるとするなら
私の庭は恋草ぼうぼう
刈っても刈っても生えてくるから
きっとトラック七台分はあるんじゃないかしら
それが全部私の心から生えてくるんだから、恋って恐ろしいものよね
恋は今はあらじと吾は思れるをいづくの恋ぞつかみかかれる
(こいはいまは あらじとわれは おもえるを いずくのこいぞ つかみかかれる)
(万葉集 巻4 695)
【意訳】
もう!
なんなのよ!
恋なんてもう絶対しないって思ってたのに!
どっかに隠れてた恋の奴が、いきなり私につかみかかってきたのよ!
おかげで心の中ぐちゃぐちゃじゃないのよ!
どうしてくれるのよ!
広河女王は、天武天皇の曾孫。
ままならない恋に振り回されたらしいのだけど、詳細は不明。
彼女の祖父の穂積皇子も、つかみかかってくる恋の歌を残している。
家にありし櫃に鍵さし蔵めてし恋の奴のつかみかかりて
(いえにありし ひつにかぎさし おさめてし こいのやっこの つかみかかりて)
右の歌一首は、
穂積親王、宴飲(うたげ)する日、酒酣(たけなわ)なる時に、好みてこの歌を誦みて、恒の賞(めで)としたまひき。
(万葉集 巻16 3816)
【意訳】
恋で身を持ち崩すのは、もうたくさんだと思ったから、家にあったデカい箱に閉じ込めて鏡までかけてあったのに。
恋の野郎、まんまと脱走して、またしても俺に取り憑いて来やがった。
穂積皇子は、異母兄である高市皇子の妻だった但馬皇女との不倫が露見して、左遷された過去があったらしい。