前回の、雨嫌いの恋人を待つ大伴女郎の歌に共感したらしい別人が、連作のような内容の歌を詠んでいる。
後の人の追同せし歌一首
ひさかたの雨も降らぬか雨づつみ君に副ひてこの日暮らさむ
(ひさかたの あめもふらぬか あまづつみ きみにたぐいて このひくらさむ)
万葉集 巻四 520
【語釈】
たぐふ…同じものが二つ並んでいる。並んでいく。共に行く。
……
大伴女郎の歌では、雨嫌いの恋人が、前の晩の雨に嫌気がさしたのか、逢瀬を延期したようだった。
今回の歌の作者の恋人も雨嫌いで、どうやら晴れた日を選んで会いにきたらしい。
このまま晴天が続けば、恋人はあっさり帰ってしまうだろうけれど、帰る前に雨が降れば、自分のところにずっと居てくれるかもしれない。
そんな切ない思いが、天と恋人のどちらかに届いたのだろうか…
【怪しい意訳】
このところの雨続きで足が遠のいていた、出不精の彼。
すっかり晴れ上がった今日になって、やっと私のところに来てくれた。
素敵な人だけど、ちょっとドライなところがあって、時々つかみどころがないなあって、思ったりもする。
雨に濡れてでも私に会いに来て欲しい、もっと強く求めて欲しいって、本当は言いたいけど、口に出したらきっと引かれる。だから、言えない。
彼が私の家にいるうちに、雨、また降ってくれないかな。
そしたら、雨が嫌いなあなたとお揃いの気分で、一日中、ずっと一緒に過ごせるのに。
……
英訳では、「ひさかたの雨も降らぬか」に、文語的な表現を当てて、祈りの詠唱のような印象になっている。
520.
May rain come falling
From the heaven up above,
That I may detest
The rain and sojourn like you,
And stay all day long with you.
「萬葉集 THE MAN'YO-SHU」
神田外国語大学 中教出版
【語釈】
- may+主語+動詞の語順で、願わくは〜ならんことを。〜させたまえ。祈願、願い、呪いなどの文語的表現。
- the heaven up above…上の方にある天国。
- detest…ひどく嫌う。
- sojourn…滞在する。
- all day long…一日中。
【訳】
願わくは、天空の遥かなる高みより、雨よ、降り注がんことを。
さすれば我も、君の如く雨を憎み、屋敷に引き篭もりて、夜もすがら、君と共に過ごさん。
……
文語文っぽく訳してみたけれど、恋の風情が消し飛んだような気がする。
(下の絵は、この歌のイメージでAIのCopilotさんに描いてもらった。)