「自閉症なんか怖くない―低機能広汎性発達障害者とのつきあい」
(片倉信夫 著 学苑社)
この本について、二年ほど前に、次のような感想を書いた。
(だいぶ読みにくい文章だったので、書きなおした。)
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「自閉症」はずいぶん知られるようになったけれど、「広汎性発達障害」と聞いて、どういう障害であるのか具体的に分かる人は、ほとんどいないと思う。
まして、「低機能」といわれる子が、大人になってから、どんな暮らしを送るのかを知っている人は、私の周囲には一人もいない。
乳幼児検診などで、広汎性発達障害の疑いがあると仄めかされた親たちは、なんだか分からず途方に暮れるしかない。「自閉症じゃないのだから、様子を見ていれば治る見込みがあるのかもしれない」と、心もとない期待を抱かされる場合さえある。
まだ五歳の私の子どもも、広汎性発達障害と言われている。
発語がなく、自立して出来ることも、とてもすくない。
この子の将来のために、今何ができるのかを、医師などに相談しても、有意義なアドバイスは何一つもらえなかった。
子供のためにすべきことが全く分からず、将来の見とおしも得られないまま、ただただ本を買い集め、読み漁るうち、この本に出会った。
かなり苛烈な事例が多く紹介されているようで、正直、読むのが恐ろしいと思った。
けれども著者の、まさに渾身の力を持って障害に立ち向かう姿を読むうちに、親にできることは、まだまだあるはずと思えるようになった。
我が子の将来を絶望から遠ざけ、少しでもよくするために、必要とされる覚悟がどんなものであるかも想像することができた。
それは周囲の専門家のどなたにも教えてもらえなかったことである。
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書いた当時、まだ幼児だった息子は、小学二年生になった。
問題行動は数知れず、日々の療育・訓練も、心身に堪える重労働だけれど、倦まずたゆまず、なんとか暮らしてくることができた。この本を読んでいなければ、とても続かなかったと思う。
ただ平穏に生きていくのにも、腹を据えて覚悟を決めなくてはやっていけないような困難を携えて、息子は私たちのもとに生まれてきた。
それはとてつもなく大変だけれど、強烈に手ごたえのある人生でもある。
できることなら、この本には書かれていない、生き抜いた「先」のところまで、見届けたいと思う。
(2005年04月06日)