お気に入り本棚の3冊目。
池内紀「モーツァルト考」講談社学術文庫
1996年に発行された本で、私がもっているのは2000年の第5刷。
クラシック音楽にそれほどの縁も知識もなかった私が、こんな本を買ったのには、理由があった。
息子に重度の知的障害(自閉症傾向のある広汎性発達障害)の診断が出たのが、2000年の2月ごろだった。
息子に半端なく重い障害があると分かってから、間髪を入れずに療育の方法を探し始め、家で出来そうなことは片っ端からなんでもやった。
音楽療法というジャンルがあることを知ってからは、息子がよく反応する楽曲を探して、とにかく一緒に聞いた。
息子は乳児の頃からクラシック音楽を妙に好んでいた。
童謡や手遊び歌も嫌いではなさそうだけど、オーケストラの曲や、バロック音楽が流れきたときのほうが、明らかに表情がよいことが多かった。ロック、ヘビメタ系は、うるさそうにしていた。
長女さんの長期入院中、付き添いで泊まり込んでいた私のかわりに子守りをしていた亭主は、FMで流れるクラシック音楽を子守唄代わりに流していたという。生後6ヶ月ほどだった息子はグレゴリオ聖歌がお気に入りで、聴かせるとよく眠ったそうだ。
1998年の春か初夏だったと思うのだけど、テレビで放映されたベルリンフィルの「ラテンアメリカ・ナイト」というコンサートを聞かせた時のことは、いまも鮮明に覚えている。
当時生後6ヶ月ほどだった息子は、腹ばいになって頭をキッと高く上げ、何曲ものあいだ画面を凝視し、耳を傾けていた。その集中ぶりが乳児のものとはとても思えず、若干困惑しつつも、面白いなぁと思ったものだ。
そんなこともあって、クラシック音楽をいろいろと聞かせつつ、音楽の「効能」などについても調べるうちに、大作曲家のモーツァルトが、実は発達障害だったらしいという説を知った。
それでモーツァルトの人となりや人生に興味を覚えて、たまたま見つけたこの本を買ったのだと思う。
障害児の親としての好奇心から手に取った本だけれど、20年以上もほとんど読まずに「積ん読」状態だったのは、育児戦争で忙しかったというのもあるけど、興味の対象だったモーツァルトの人となりが、ちょっと、かなり、想定外にアレだったというのもあるけれども。
まどろっこしく書いても仕方がないので簡単にいうと、私はスカトロが苦手なのだ。
モーツァルトが書簡などでスカトロ趣味を炸裂させていたというエピソードはいまでは有名だけど、本書ではモーツァルト本人の趣味趣向に留まらず、18世紀の馬車旅行やホテル住まいにおける凄惨やトイレ事情にまで言及していて、それはほんの数ページ程度の記述ではあるのだけど、当時の(いまより若干繊細だった)私の読もうという心を折るのには十分な迫力だった。
携帯トイレというのがありました。外から見たら革張りの真四角なトランクなんです。開けると穴が空いていて、壺状のものがピタッと入っていて、それを馬車の中で使ったようです。
揺れる馬車のなかで、「それ」は中身がこぼれたりしなかったのだろうか。
どうでもいいことだけど、中身をどうするんだと思うでしょう。捨て放題ですね。どこか止まったところにバサッと捨てる。ですから、たとえばホテルに着いて三階の窓から捨てたりね。上から降ってくるのがあるでしょう。その降ってくるのを防ぐための傘があったんですよ。「糞尿よけ傘」といった意味の名前が残っています。
たとえ格安で18世紀の貴族階級としてヨーロッパを旅する機会があっても絶対にお断りしたい。
とはいうものの、今読むと、心折れるほどの衝撃はない。子どもを3人も育てるうちに糞尿話への耐性もそれなりについたのだろう。読んでいなかった部分もそのうち読み進めてみよう。