Amazonプライム・ビデオで見られる「攻殻機動隊」のテレビアニメを、全編見終わった。
「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(S.A.C.)」全26話
「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」全26話
「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society(S.A.C. SSS)」2時間3分
よくまあ、数日でこれだけ見たものだ。
映像作品を見るのが苦手とか、どの口が言うかという感じだけど、水泳の息継ぎみたいに細切れに休憩を入れながらでないと、見続けられない。基本、アニメやドラマを見るのはかなり苦しいのだ。
それでも見続けたのは、ストーリーに過集中してしまって続きを見ずにはいられなかったからだ。陰鬱で救いのない世界観の物語なのに。
度重なる世界大戦で荒廃した国土と、数百万人の難民を抱える2030年代の日本。
ほとんどの国民が電脳化され、ネットにつながって生きるという超情報化社会で、前世紀には考えられなかったような、息苦しい社会問題が蔓延している。
その救いのない世界で、ちょこまかと動き回るタチコマのAIたちが、いじらしすぎる。(メインキャラたちの活躍が凄いのは当然だから傍に置いとく)
賢くて、好奇心旺盛で、何があっても嬉しそうで、悪意とか微塵もなくて。
なのに、タチコマたち、物語のなかでの扱いが悲惨すぎる。(;_;)
最初のシリーズでは、AIなのに独自の個性や思想が芽生えた可能性があることから、危険視されて、介護施設などに払い下げ処分をされてしまった。
甲斐甲斐しく老人介護に勤しんで、介護職のおばちゃんたちに頼りにされるタチコマが、どれほど愛らしかったことか。
それなのに、公安9課の仲間(人間)たちが危ないことをテレビニュースで知って現場に駆けつけ、仲間の身代わりに大破して果てるタチコマたち…
「2nd GIG」のラストは泣くしかなかった。
せっかくデータをサルベージしてもらって復活し、個性を持つことを仕様として認められたのに、またしても公安9課の仲間たちを守るために、迷いなく命を捨ててしまう。
「手のひらを太陽に」をキャピキャピした歌声で合唱しながら、自分たちのデータが乗った人工衛星を、原子力爆弾に体当たりさせて、地上の人々を救うタチコマたち…
「手のひらを太陽に」の作詞は、やなせたかしだったか。
曲は明るいけど、内容をよくよく聞くと、恐ろしく孤独な歌だ。
何か危機的な状況に追い詰められている孤独な人が、自分の命がまだ終わっていないと実感することで、なんとか生きていく勇気を搾り出そうとしている……
そういう状況でもなければ、「生きている」ことを繰り返し強烈に認識しようとはしないだろうし、ミミズやオケラに魂の底から共感を寄せる心境にもならないだろう。
同じ歌詞でも、「生きていない」はずのAIのタチコマたちが歌うと、一層皮肉で痛ましい解釈が可能になる。あのシーンで「手のひらを太陽に」をタチコマたちに歌わせるシナリオを書いた人は、ちょっと鬼だと思う。
思えば、同じやなせたかし作詞の「アンパンマンのマーチ」も、恐ろしい歌だ。
自分が何のために生まれて、何が自分の幸せであるのか、わからないまま死にたくないとか。
友達が愛と勇気だけで実質皆無とか。
そんな内容の歌詞を、健常な幼児に歌わせるのもキツいけど、息子が通っていた重度心身障害児の施設では、金輪際流して欲しくないと思ったものだ。
タチコマたちはAIだから、破壊されて消失しても、データのコピーがあれば復活できるし、実際復活してくるんだけど、彼らの消失は「死」とほぼ等価だった。
バックアップされていたデータを元に再生されたタチコマたちは、元の個体が蘇生したのではなく、部分的に同じ遺伝情報を持つ直系の子孫というほうが近いかもしれない。
タチコマのことばかり書いたけど、ストーリーはどこもかしこも重くて深刻で、しかもいまの日本の社会で問題になっていることが、ぎゅうぎゅう詰めのてんこ盛りだったので、見ていてかなりむずむずした。
難病と医薬品開発に絡んだ利権問題。
知的障害児(ほぼ自閉症)の療育に絡んだ搾取や人権問題。
右傾化と異文化摩擦。
難民と差別の問題。
貧困層から抜け出せない人々と雇用問題。
ほかにもいろいろあったと思う。
「2nd GIG」全26話では、草薙素子の生い立ちについて、少しだけ触れられていた。
何らか病気か事故で植物状態になり、病院で意識もなく寝たきりだったこと。そのために全身義体のサイボーグになり、稀有な戦闘の才能を開花させ、軍を経て公安に入ったこと。同じ病室にいてお互いに思い合っていた少年がいたけれど、のちに警官とテロリストとして再会する運命だったこと。
電脳化やサイボーグの技術があれば、うちの子どもたちのような難病や重度障害の苦しみから解放されるのではないかと思って、少しばかり夢を見たりもしていたけど、この作品はそんな甘い夢を粉砕するエピソードをしっかり織り込んでいた。
電脳化にはすべての人が適応できるわけではなく、稀に「電脳硬化症」という難病を発症し、死に至る事例があるという。その難病の発症を抑えるワクチンが開発されたのに、競合する医療技術を開発した企業の利権を守るために国が認可せず、命を落とす人々が出続けたため、企業を狙ったテロが頻発。なんとも世知辛いエピソードだった。
電脳化に極端に適応して「電脳閉殻症」になってしまった子どもたちのふるまいは、ほとんど自閉症のようだった。彼らは授産施設に収容されて、そこで一心不乱に防壁プログラムの解体や構築を行なっていた。才能を活かせる仕事を与えらているのは確かだけれども、障害を理由に奴隷奉公を強いられ、国に利用されているようにも見える。授産施設のしていることが障害児の保護なのか、分かりにくい搾取なのか、はっきりしないままこのエピソードは終わっていたと思う。
もっと続きが見たいけど、「STAND ALONE COMPLEX」に続く、「攻殻機動隊 ARISE」のシリーズは、残念ながら今はプライム・ビデオでは見られないので、我慢。
亭主によると、「ARISE」のコミックを2巻目までは買ってあるらしい。書斎に埋まってるのだろうから、そのうち掘ろう。
(_ _).。o○
タチコマのフィギュア、かわいいなあ。
でもお値段高いし、フィギュアだから喋らないし、動かないからなあ…。
Amazonで眺めるだけにしておこう。