ネットニュースのクリッピングサービスというものを、利用している。フォルダーを三つ作り、そのうち一つは「文学クリッピング」と題して、国文学関連の記事があつまりそうなキーワードを設定してみている。小説・俳句・短歌・和歌……などである。
ところがこのフォルダー、毎日毎日大量のニュースが配信されるのだけれど、文学情報の収集に役立つことは滅多にない。
ではナニが来るのかというと、ほとんどが「和歌山」情報なのである。キーワードに入れてある「和歌」に、県名の「和歌山」がひっかかって、かの県にかかわる新聞記事がすべて送り込まれてくるのだ。
これまでの人生で和歌山県に興味をもったことはほとんどない。もちろん行ったこともない。結婚するときに、亭主がなぜか新婚旅行は和歌山にしようと言っていたのだけれど、過労でめんどくさくなったと言って変更になった。亭主が言うには、和歌山を旅するには十全な体力がかかせないのであるらしい。
そんなわけで、あまりご縁のない和歌山情報の大量配信に閉口していたのだが、毎日毎日読まされていると、しぜんと親しみというか愛着らしきものが生まれてくるもので、「和歌」というキーワードをはずすこともせず、なんとなく和歌山ウォッチングを続けている。
それにしても、和歌山というところは物騒なニュースが多い。サメ避けに人が
からまって溺れ死ぬ。池に人の袋詰めが捨てられている。調べてみたらリンチ殺
人で別の被害者もみつかった。乳幼児に覚醒剤を飲ませる事件もあった。あくど
い霊感商法でつかまった坊さんたちの捜査もまだまだ続いているらしい。0-1
57ももちろんわいた。
たとえばキーワードに「青森」とか「宮城」とかを設定しても、こんな物騒な
ニュースはめったに入らない。物騒なだけでなくて、奇妙に心惹かれるニュース
も多い。雌雄同体の怪しいカブトムシが見つかったのも和歌山だったし、高野山
関連の美術報道も多い。東北六県ぜんぶをキーワードにしたって、記事の見出し
群の迫力ではたぶん和歌山の足もとにもおよばないだろう……などなど、先入観
たっぷりな和歌山観を亭主にしたら、当然そうな顔で言った。
「とーぜんやないか。中上健次の世界やぞ」
「そーなの?」
「あと、帝都物語の加藤ヤスノリ(漢字忘れた)も和歌山の出身やないか」
「へえー」
「あそこは霊感オカルトのメッカやぞ」
「そうなのか……ダンナ、中上健次の本もってる?」
「あるぞ」
「読んでみよっと」
こうして「文学クリッピング」はめでたく和歌山文学情報として活用されるに
至ったのであった。
(1996年8月25日)
※過去日記を転載しています。