蔦の紅葉を詠んだ和歌を探している。
前回の藤原定家の和歌の記事に書いたように、平安時代の勅撰和歌集集には、蔦を詠んだ歌が掲載されていない。
和歌メモ・蔦の紅葉(新古今和歌集・藤原定家) - 湯飲みの横に防水機能のない日記
新古今和歌集の蔦の歌は、定家の一首のみ。
「蔦」という言葉が、さかんに歌に詠まれるのは、鎌倉時代以降で、夫木和歌抄(鎌倉時代後期成立)には複数収録されているらしい。
夫木和歌抄は、勅撰和歌集に掲載されていない和歌が大量に収録された私選和歌集で、私はこれまでほとんど触れたことがなく、注釈書なども手元にない。
なので、そちらは宿題ということにして、今回は、つる系の植物ということで、クズ(葛)を詠んだ歌を探してみた。
ツタ(蔦)は、ブドウ科ツタ属。
クズ(葛)は、マメ科クズ属。
植物としての種類が違うだけでなく、和歌での詠まれ方もだいぶ違っていて、葛のほうは平安時代にもよく詠まれていたようだ。
今回取り上げるのは、万葉集の詠み人知らずの歌。
黄葉(もみち)に寄せき
我がやどの 葛葉日に異に 色づきぬ 来まさぬ君は 何心そも
(わがやどの くずはひにけに いろづきぬ きまさぬきみは なにごころそも)
万葉集 第10巻 2295
✴︎葛……多年生のつる草。葉の裏は白い。黄色く紅葉する。生命力が強く、海外では「世界の侵略的外来種ワースト100」に指定されている(Wikipediaによる)。
✴︎日に異に……日増しに。一日ごとに。
✴︎きまさぬ……尊敬の動詞「きます(来座す)」に、打ち消しの助動詞「ず」の連体形がくっついたもの。「いらっしゃらない」「おいでにならない」「来てくださらない」。
✴︎何心(なにごころ)……どのような心。どんな考え。
【てきとー意訳】
我が家の庭は、葛だらけ。
夏の間、お手入れをちょっとサボっていたら、おそろしいほど蔓延(はびこ)っちゃって、見渡す限り、葛、葛、葛。もっさもさ。
そんな怒涛の葛たちも、秋に入って色づいてきて、庭はすっかり黄色くなった。
最初の頃は、勢いがありすぎて鬱陶しいと思っていたけど、ずっと見てたら、なんだか愛着が湧いてきたっていうか。
葛みたいなモーレツなタイプって、分かりやすくて、嫌いじゃないかも。
それにくらべて。
前に貴方がうちにいらしたのって、いつだったかしら。
来るのか来ないのか、分からない。
そもそも何を考えてるのかも、分からない。
二人のこと、将来のこと。
葛みたいになれとは言わないけれど、もう少し、気持ちを見せてほしいわね。