「貧窮問答歌」として知られる、山上憶良の長歌と短歌があるけれど、TwitterがXに変わったのを見たときに、真っ先に思い浮かんだのが、その短歌だった。
世の中を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば
万葉集 巻五 893
*やさし……痩せてしまいそうなほど、つらい。消えてしまいたい。耐え難い。
【意訳】
理不尽な貧乏生活がつらすぎて、ガリガリに痩せちゃって、もう耐えられそうにないんだけど、どっかに飛び立つわけにはいかないんだよねえ。俺、鳥じゃないからさ。
(_ _).。o○
Twitterの鳥は、どこかに飛んでいってしまったけど、バツ印のSNSには、世の中のドス黒い澱がどんどん溜まっている。
いつか、それらが昇華される日はくるのだろうか。
「やさし」という形容詞は、山上憶良の時代には「やせるほどつらく、苦しい」だった。その後、
「気恥ずかしい」→「慎み深い」→「しとやかだ。優美だ」→「けなげだ」
と、意味が移り変わって、現代では「親切だ」になっている。
SNSで吐かれる毒も、社会の底に溜まって危険な形で噴出する前に、うまく変質してくれないものだろうか。もちろん、無害な鳥になって、どこかに飛び立ってくれてもいいのだけど。🕊️
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