図書館から借りた3冊のうち、2冊読了。
歴史に疎いので、どの程度の破壊力だったのかは分からないけど、少なくとも「徒然草」の作者として一般的に共有されている兼好法師像は、相当ぶっ壊されたかもしれない。
よく考えると、兼好法師という人物は、だいぶ謎めいている。
地道に宮仕をしていて、それなりの出世も遂げていたにもかかわらず、まだ若いうちにいきなり出家遁世してしまう。妻子は持たなかったというけれど、俗世から完全に離れたわけでもなく、高師直などとも交流があったらしい。近年になって、実は出自もはっきり分からないことが判明したそうだ。
そんな兼好法師を、半村良は、鎌倉幕府崩壊や南北朝の騒乱を引き起こすべく暗躍した、黒幕的な組織のブレーンとして描いている。
南北朝時代に至るまでの流れや社会背景がかなり丁寧に説明されている反面、人物の生き様を描く物語要素が少ないので、なんだか歴史の教科書を読んでいるような感じがしたけれども、退屈せずに読めたのは、分量的には少ない物語部分の視覚的イメージが非常に鮮烈だったからだと思う。
いい感じで、日本史の勉強になった。
松本章男「業平ものがたり」
とにかく面白く読めた。
在原業平は政治的に対立していた藤原北家のために、なかなか日の当たりにくい人生を送ったとされている。熱愛する女性との逢瀬は阻まれ、出世は頭打ち。
伊勢も、恋愛や結婚で藤原北家の人々に散々に翻弄される人生を送った人でもあるので、業平にシンパシーを感じたことから、この歌物語を書き起こしたのではないか、という。
「伊勢物語」は、関連性がはっきりしない、たくさんの短い物語からなっている。それらを漫然と読んでみても、「むかし、男」といわれる人物の性格がよくわからないまま終わってしまう。女性に一途なのか、ただのチャラいナンパ好きなのか、仕事に真面目なのか、いい加減で放蕩なのか、どうにもつかみどころがなくて、一人の人間の話とは思えなくなってくる。
本書では、そんなバラバラな「むかし、男」の物語を並べ直して、業平の人生や歴史事項と照合しながら、隠されている物語を再構築して見せる。
年若いころ、身分違いの少女に熱烈に恋したものの親に無理やり別れさせられたことが、根深いトラウマとなって、少女崇拝的な性癖を持つようになり(ロリコンとは書かれていなかった)、後年、年の差の甚だしい少女たち(のちに女御になる藤原高子、伊勢斎宮の恬子内親王)との禁断の恋愛騒動に繋がったのではないかという説は、なんとなく納得してしまった。
東国に下ったことについては、自分の所領で製塩業を起こすために、製塩を行なっている地域を視察して技術を学んでいた可能性があるという。その事業がうまく回るようになり、資産や朝廷での立場もそれなりに維持できたのでかないかという。
派手な恋愛スキャンダルを起こしつつも、実業家として堅実に働き、朝廷の仕事もこなす、在原業平。
「伊勢物語」の解釈としては、かなり異端な部分もあるのだろうけど、在原業平を、納得感のあるひとまとまりの人物像にまとめ上げて見せてもらえたのは、大変有り難かった。