古今和歌集の、雨の歌を二首。
まず、大友黒主の歌。
題しらず
春さめのふるは涙か桜花散るを惜しまぬ人しなければ
(はるさめの ふるはなみだか さくらばな ちるをおしまぬ ひとしなければ)
(古今和歌集 巻第二 春歌下 88)
【意訳?】
長雨のせいで、せっかくの花が台無しだな。
うちの連中も、柄にもなくしょぼくれてるし。
春なのに、なんだか俺まで悲しくなっちまうぜ。
こういうのを涙雨っていうんかねえ。
景気付けに、いっちょ宴会でも開くかね。
……
大伴黒主は、近江国滋賀郡の大友郷の人で、郡の大領と言われる位置にあり、八位に叙せられた人だという。
大領は、郡司の長官のことで、中央から送られるのではなく、地元の有力な豪族が任命されていたらしい。
六歌仙のメンバーは、僧正遍昭、在原業平、文屋康秀、喜撰法師、小野小町、大伴黒主。
古今和歌集の仮名序は、わざわざこの六人の名を挙げて、辛辣にに貶している。
大友のくろぬしは、そのさまいやし。いはば薪負へる山人の花の陰にやすめる如し。
【意訳】
大友黒主の歌は、なんつーか、品がない。
例えていうなら、薪背負ったムサいおっさんが、美しい花の陰で、うんこ座りしながら一服してる感じ。
モチーフはいいんだけど、本人が台無しにしちゃってるんだよねー。
……
ちょっとひどいと思う。
いまなら、イケおじとか、ちょい悪オヤジなイメージの人だったかもしれないけど、平安時代の都会派貴族から見たら、「山人」だったのだろう。
次は小野小町の歌。
題しらず
花の色は移りにけりな徒にわが身世にふるながめせし間に
(はなのいろは うつりにけりな いたずらに わがみよにふる ながめせしまに)
古今和歌集 巻二 春歌下 113
*世…世の中、男女の仲。
*ふる…「経る」、暮らしていく。
*ふる…「降る」、雨などが降る。
*ながめ…長雨。降り続く春雨。
*ながめ…動詞「眺む」。物思いに耽る。
【意訳?】
枯れる前に散る花は、シアワセだと思うの。
だって、醜く老いていく姿を見せずに消えていくのだから。
春の雨って、嫌いよ。
考えたってどうにもならない、あの人とのことばかり、考えさせられてしまうから。
悩んで、苦しんで、いつのまにか、年とっちゃって…
いい女だなんて、言ってくれる人は多いけど、虚しい暮らしだわ。(ため息)
………
小野小町は、古の衣通姫の流なり。あはれなるやうにて、強からず。いはばよき女の悩めるところあるに似たり。強からぬは女の歌なればなり。
【意訳】
小野小町?
ありゃ伝説の衣通姫系だね。
なんつーか、ロマンチックに見えて、単に本質的にメンタル弱いだけっていうね。自分がないの。
衣通姫っていうと、実の兄貴との禁断の近親相姦に溺れて心中しちゃった女性だけど、あれみたいな感じで、男に流されるだけ流されちゃって破滅して終わる美女のパターンだな。
まあ女だから、自我が弱そうな歌になっちゃうっつーのは、仕方ないんだろうけどさ。
……
仮名序を書いた紀貫之、あの世の歌壇で六歌仙にタコ殴られてるんじゃなかろうか。