湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

読書日記…「最後の竜殺し」(ジャスパー・フォード)

ひさびさに、日本のラノベではないファンタジー小説を読んだ。(kindle読み放題)

 

「最後の竜殺し」(ジャスパー・フォードないとうふみこ 訳  竹書房文庫)

最後の竜殺し (竹書房文庫)

最後の竜殺し (竹書房文庫)

 

 

作者のジャスパー・フォード(Jasper Fforde)を知らなかったので、ウィキペデアの記事を見てみた。

 

イギリス・ウェールズ生まれのSF作家。

10歳で映画監督を志し、高校卒業後、映画業界で撮影助手を約10年務めた。その後、小説を書き始め、短編多数と5本の長編を書くが、いずれも出版社から拒否され、原稿不採用の通知を76通受け取る

 

 

不採用通知の76通という数字が妙に生々しい。

 

そういえば訳者あとがきにも、著者の苦戦の軌跡が紹介されていた。

 

 本書 The Last Dragonslayerは、九八年に初稿を書いたあと磨きをかけてニ◯◯◯年に持ち込んだ。エージェントには気に入ってもらえたが、当時はちょうど「ハリー・ポッター」ブームが本格化しはじめたころ。新人が魔法ものを書いたら亜流とみなされるという判断でお蔵入りになってしまった。そこで代わりに『ジェイン・エアを探せ!』の原稿を見せたところこちらはすぐにゴーサインが出て、ついにニ◯◯一年、作家デビュー。

  (「最後の竜殺し」訳者あとがきより引用)

 

ハリー・ポッター全盛の頃には、書店に欧米産のファンタジー小説がたくさん並んでいたものだけど、その作者たちは新人ではなかったのだろう。

 

あれ、でも、「ダレン・シャン」シリーズが出たのも、そのころじゃなかっただろうか(全部読んだ)。同じ新人の作品でも、あちらは吸血鬼だから、魔法使いものとはかぶらないのか。

 

ジャスパー・フォード作品で邦訳されているものはまだ少ないようで、今回読んだ「最後の龍殺し」のほか、次の二作品がウィキの著作リストにあった。

 

文学刑事サーズデイ・ネクスト』シリーズ(田村源二 訳 ソニーマガジンズ)

『雪降る夏空にきみと眠る』(桐谷知未訳, 竹書房文庫)

 

文学刑事……かなり心惹かれる。

「雪降る夏空にきみと眠る」のほうは、「最後の竜殺し」同様、kindle読み放題サービスで読めるようだ。読もう。

 

 

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「最後の竜殺し」の「敵は竜ではなく資本主義!?」というキャッチコピーが表紙にあるけど、結果的にはそういうわけではなかった。

 

 

 ただ、資本主義というよりも、心の底まで拝金主義にどっぷり漬かって、良心も正義も見失った権力者や事業家たち、目先の金を惜しんで他人を平気で踏みにじる一般庶民たちの醜悪さと浅ましさが、これでもかと描かれているので、勇者である主人公と同じくらい、読んでいる私もうんざりした。

 

お話の舞台は、「不連合王国(アンユナイテッド キングダムズ)」という、イギリスを猛烈に感じ悪くしたような国。

 

時代的には資本主義と科学技術が発達した現代なのだけど、ドラゴンや魔術師も実在しているという、奇妙な世界だ。

 

ちなみにハリー・ポッターシリーズとは読んだ印象がだいぶ違う。

独自の文化圏を持っているハリー・ポッターの世界の魔法使いたちとは違って、「最後の竜殺し」の魔術師たちは、減衰していく魔力と貧困に苦しめられて、じわじわと社会の底辺に沈んでいこうとしている人々だからだ。

 

主人公のジェニファーという15歳の少女は、カザム魔法マネジメントという会社の社長代理として、ものすごくクセの強い魔術師たちのマネージャーのような仕事をしている。

 

ジャニファーは生まれてすぐ孤児院前に捨てられていた子どもだった。

 

「不連合王国」では、ジェニファーのような戦災孤児が大勢いて、孤児院を出たあとは割り当てられた就職先でブラックな年季奉公をしなくてはならない決まりとなっている。

 

孤児たちは社会のなかで差別され、就業の自由を制限される存在でありながら、その労働力が社会を底から支えているという、実に胸糞悪い構造で産業が成り立っているらしい。

 

そんな社会の頂点にいる国王や資本家たちは、世の中から金と土地を吸い上げることだけに重きを置いていて、富を増やすためなら「不連合王国」内での侵略戦争すら憚らない。貧富の差が拡大していけばいくほど、多くの人々がますます金の亡者と化していく。

 

そんな世知辛い国の底辺付近で、ジェニファーは、行方不明になっているザンビーニ社長を探しながら、必死にカザム魔法マネジメント社を切り盛りしていたけれど、魔術師の社会的評価が下落する一方であるため、彼らを食べさせるための日雇い仕事を取ってくることも、日に日に難しくなりつつあった。

 

そんなとき、未来予知の能力を持つ魔術師たちが、最後のドラゴンであるモルトカッシオンがまもなく死ぬと予言した。

 

ドラゴンは、ドラゴンランドと呼ばれる広大な土地に隔離されて暮らしている。ドラゴンランドは、四百年前の偉大な魔術師シャンダーの魔法によって封じられているため、ドラゴンスレイヤーとして選ばれた人間以外はそこに入ることができない。けれどもドラゴンが死ねば、魔法が消えて、所有者のいない土地だけが残ることになる。

 

予言が広まると、国中の拝金主義者たちは狂喜乱舞してドラゴンランドの周囲に集まり、土地を囲って自分のものにする準備をしはじめた。

 

ドラゴンはかつて、人を襲い家畜を奪う凶悪な存在として恐れられていたため、最後の一頭が死ぬことを惜しむ人間はほとんどいなかった。

 

けれども、魔術師たちは、自分たちの魔力とドラゴンの存在が密接に関係していることに漠然と気づいていた。魔術師たちは、ドラゴンの死とともに、魔力が再び増大するビッグマジックが起きることを予期して、ドラゴンランド周辺に集まりつつあった。

 

また、魔術師たちを家族のように大切に思うジェニファーにとっても、ドラゴンは、金のために殺していい存在ではなかった。とはいえ、魔力が少ないジェニファーにできることは何もなかったはずだった。

 

ところが、ドラゴンやビッグマジックについていろいろと調べてまわるうちに、ジェニファーは、高齢のドラゴンスレイヤーと遭遇し、四百年にわたって伝えられてきた能力をいきなり継承させられて、最後のドラゴンスレイヤーとなってしまう。驚いたことに、ジェニファーが最後のドラゴンスレイヤーとなることは、四百年前からすでに決まっていたことなのだという。

 

そこからは怒涛の展開だった。

国王をはじめとする金の亡者たちがジェニファーに群がり、ドラゴン亡き後の土地その他のさまざまな利権を我が物にするために、ありとあらゆる陰謀をめぐらしはじめたのだ。

 

群衆に追いかけられたり、身に覚えのない大借金を背負わされたり、挙句の果てには命を狙われたりしながら、ジェニファーは数少ない味方とともに、心から大切に思うドラゴンと魔術師たちのために危機を乗り越え、運命の時を待ち受ける。

 

ドラゴンたちは、最強の魔術師シャンダーに騙されてドラゴンランドに閉じ込められてから、四百年かけて、その魔法を解くための準備をしていた。シャンダーの魔法を上書きできるほどの魔力のかわりとなる、人間の感情をかき集めるため、ドラゴンたちは、歪んだ資本主義社会にはびこる人間の拝金主義を利用したのだ。

 

最後のドラゴンであるモルトカッシオンの心からの願いによって、ジェニファーはモルトカッシオンにとどめを刺し、ドラゴンランドが封印が解ける。間髪を入れずに土地の奪取を開始した人々の醜い欲望に怒ったジェニファーは、凄まじい怒りにかられて、魔力に満ちた叫び声をあげた。

 

ドラゴンランドの利権に浅ましく群がる人々の膨大な欲望は、魔力をほとんど持たないジェニファーが秘めていたバーサーカーの能力によって一気に集められ、それによってビッグマジックが引き起こされた。未来予知能力をもつドラゴンたちは、そのためにジェニファーが現れるのを四百年間待ち、ドラゴンランドからの解放を果たしたのだった。

 

というわけで、資本主義は直接の敵ではなく、むしろ魔力というエネルギー資源の温床だったことになる。

 

ジェニファーを含む孤児たちや、ドラゴンたちの敵は、目先の利益のために信頼を裏切るような、浅ましく貧しい精神性だったのだと思う。

 

「最後の竜殺し」はシリーズ化していて、すでに続編が二冊出ているのだとか。邦訳されたら、読みたい。できればkindle読み放題で出してほしいけど、さすがにそうはいかないかな。(´・ω・`)