(2005年06月24日)
⭐︎過去日記を転載しています。
香島根の 机の島の しただみを い拾ひ持ち来て 石もち つつき破り 速川に 洗ひ濯ぎ 辛塩に こごと揉み 高坏に盛り 机に立てて 母にあへつや 目豆児の刀自
父にあへつや 身女児の刀自
万葉集 巻第十六 (3880)
貝料理のレシピがそのまま歌になっている。
詠み人知らずのようだが、大伴家持が越中の国司時代に地方を回っていて採取したものではないかという説もあるようだ。
「しただみ」は、「バテイラ」という貝。「シッタカ」という名前で呼ぶ地方もあるとのこと。
ビールのつまみに最高だとかで、近頃では居酒屋でもよく出されるそうだが、居酒屋に行かなくなって十数年の私は、まだ見たことも食べたこともない。
ポピュラーな調理法としては、
・塩ゆで
・ゆでて、酢味噌をつける。
・味噌汁の具
・甘辛く煮る
などが紹介されているが、この歌では、塩もみしてナマで食べている。
「香島根(かしまね)」の場所は、よくわからないらしい。小学館古典全集では、石川県七尾市周辺の地名か、としている。
「机の島」は、石川県鹿島郡中島町潮嵐の南東にある周囲約四百メートルの小島、とのこと(小学館古典全集のおまけ情報)。
地図で調べたところ、種ヶ島という島とくっついている、小さな島である。今は無人島とのことだが、「い拾い持ち来て」というのだから、近隣に住んでいたのか。
【意訳?】
〈覆面料理研究かが新妻へ贈る、簡単レシピ〉
かわいいお嬢ちゃん、料理は好きかしら?
なに、からっきしダメ?
嫁に行くのが恐ろしい、と。
そりゃ困ったねわえ。
そっちの、お嬢ちゃんは?
なんと、お嬢ちゃんじゃなくて、人妻なのかね。
で、やっぱり料理は苦手で、姑の目がコワいと。
まあ、カワイソ。
ふむ。
ここは料理の鉄人の出番かしらね。
誰のことかって?
それは、ワ・タ・シ。
なんで覆面してるのかって?
それはまあ、色々と事情が、ね。
覆面が変質者っぽい?
ほっときなさい。
そんなことより、お料理の話よ。
どんなおバカちんな女の子にもできる、
いっちぱん簡単なお料理を教えてあげるから、
娘さんたち、よーくお聞きなさいね。
あなたがた、えーと、
名前はメヅコちゃんとミメコちゃんだったっけ。
なんで名前なんか知ってるのかって?
そりゃあ、鉄人ですもの。
ホホホ。つまんない詮索は、ナシよ。
さて、
まず、二人で机島にお行きなさい。
そんなとこに行って何するのかって?
食材を獲るのに決まってるでしょ。
泳げないし、釣りもできないからムリですって?
バカねえ。別に鯨を獲って来いって言うんじゃないのよ。
貝よ、貝。シタダミってやつ。知ってるでしょ。
そのぐらい、あんたたちでも拾ってこれるわよね。
たくさん拾ったら、石で殻をつんつんして割るの。
「えーっ、できないもーん」なんて、
声揃えて言うんじゃないのよ。
アタマ悪そうな女に見えちゃうわよ。
殻を割って中身を出したらね、
川に行って、よーく洗うの。
それから、濃い目の塩水で、ごしごし、揉み洗い。
あとは、脚のついたオシャレなお皿に盛りつけて、
台にのっけて。
え? そんなのめんどくさい?
ほんっと、バカねえあんたたち。
バカでもできる料理なんだから、
見栄えで勝負するんじゃないの。
シタダミさえ新鮮なら、最っ高においしいのよ。
気難しい舅姑だって、イチコロよ。
さ、覚えたでしょ。
さっそく、試してみなさいな。
え? ワタシの声、どっかで聞いたことがあるって?
気のせいよ、気のせい。
国司の大伴家持さまの声にそっくり、ですって。
なにぬかしてんのよ、このバカ娘たち。
心で思ったって、そんなこと言うもんじゃないのよ。
国司の趣味が料理と女装だなんて、
シャレにもなんないのよ。
いいこと? 余計なことしゃべったら、
机島の貝のエサにするわよっ。