湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

和歌メモ……藤の花(大伴家持)

 

大伴家持の藤の花の歌。

 

大伴宿禰家持、時じきの藤の花と萩の黄葉(もみぢ)の二物(ふたくさ)を攀(よ)じて、坂上大嬢に贈れる歌二首

 

わが屋戸(やど)の時じき藤のめづらしく今も見てしか妹が咲容(ゑまひ)を

 

(わがやどの ときじきふじの めずらしく いまもみてしか いもがえまいを

 

大伴家持

 

万葉集 1627  天平11年

 

ねこたま意訳】

 

しばらく会えなかったけど、元気だった?

 

うちの庭に、季節はずれの藤の花が咲いたんだ。

萩の花なんかすっかり散って、葉も黄色くなってるのに、いまごろ藤が咲くなんて、不思議だよね。

 

春に咲く藤の花と、秋の終わりの萩のもみじ。

 

違う季節のものでも、奇跡が起きて、巡り合うこともあるんだね。

 

すれ違ってずっと会えなかった僕たちが、また巡り合ったみたいに。

 

藤の花の紫色は、君の色だと思ってる。

誰よりも素敵で、特別だから。

 

萩の葉っぱは、僕かな。

ほんの少し、浅緋色の混じった、黄色。

 

就職して、世の中のいろんなことを見ているうちに、僕もだんだん嫌な大人になってきた気がする。見たくないものを見ないふりしたり、力のないことを理由にして、流されるままでいたり。

 

どうしようもなく気持ちが塞いだときには、君のことばかり考えてる。

 

会いたいな。

楽しそうに笑っている、きれいで特別な、僕だけの君に。

 

そういえば、昇進したら、制服の色が変わるんだ。浅緋(あさあけ)色。送った萩の葉っぱの赤っぽい色みたいなやつ。きれいだけど、藤の花がそばにないと、物足りない。

 

ずっと、一緒にいたい。

結婚まで、もうしばらくかかってしまいそうだけど、どうか、信じて待っていて。

 

 

……

 

この歌を詠んだとき、大伴家持は二十歳くらいで、内舎人(うどねり・天皇の身辺警護)となっていて、翌年には聖武天皇の伊勢行幸に付き従っている。

 

当時、天然痘の大流行で重臣たちが大量死したり、大地震や火災が起きたり、反乱が起きたりと、世の中がすさまじく荒れていたために、聖武天皇平城京に戻ることなく、無理な遷都を繰り返した。不安に取り憑かれていたのかもしれない。

 

聖武天皇に従っていた家持は、奈良に残した坂上大嬢になかなか会うこともできず、思いを募らせていたのではないかと思う。