第二回、「佐殿の腹」を見た。
歴史のなかで、私が一番興味があるのは、食生活、食文化だ。人の名前はさっぱり覚えられないけど、食べ物のことなら覚えやすい。
第一回の放映では、宴会シーンや厨のシーン、頼朝の食事シーン、おやつ立ち食いシーンなど、食べ物の出番が多かったので、ドラマそっちのけで膳や皿の上を凝視していた。
でも残念なことに、北条の館は昼間も薄暗いので、メニューをしっかり確認できなかった。
時代考証の方は、たぶんそういうところにも慎重に配慮されているのだと思うので、ファンブックなどでぜひ公開してほしいと思う。ひょっとしたら、もう出てるかな。探してみよう。
今回は、頼朝の偏食のエピソードがあった。
北条家の人々に渡されたメモ書きには、頼朝の好物が五つ並んでいた。
かに(蟹)
くり(栗)
あをな(青菜)
うり(瓜)
かうし(甘子)
「かうし」がわからないので亭主に聞いたら、「こうじ」、ミカンのことだという。
小骨の多い魚が苦手。
貝など、食べるのに手間のかかるものも嫌い。
甘い果物が好き。
そんなワガママ坊ちゃんの頼朝に、政子は小骨を全部取り去った鯵を用意して食べさせた。
お膳には、他に玄米ごはん、瓜を切ったらしきもの、汁物のお椀があったようだ。
瓜は、「まくわうり」とも呼ばれて、平安時代には秋の味覚として楽しまれていたようだ。
津軽生まれの私は、幼い頃に、祖母たちがメロンのことを「まぐぁ」と呼ぶのを聞いている。マスクメロンだろうとプリンスメロンだろうと、あの系列の果物はすべて「まぐぁ」だった。
その後、「まくわうり」という単語の存在を知って、津軽弁の「まぐぁ」は「まくわうり」のことだったのだなと気がついた。
亭主の地元(兵庫県)では、「まっかうり」というそうで、いまも親戚が栽培しているとか。
ドラマの中で頼朝が食べている瓜は、アボカドみたいに濃い緑色のものだ。私の知っている「まくわうり」の実は、もっと淡い色だったように思うから、品種が違っているのだろう。
現在栽培されている「まくわうり」を調べてみたら、北海カンロと言われる品種の皮側の色合いが、メロンよりも濃い緑色のようだ。
機会があれば、食べてみたい。
(_ _).。o○
今回は、衣装にも意識を向けてみた。
ドラマに登場する坂東武者たちは、ほとんどみんな「直垂(ひたたれ)」という着物を着ている。
ただ、第一回目の北条時政は、地味な灰色の直垂姿で宴会に出ようとして娘の政子に叱られて、あざかやな黄緑色の水干(すいかん)に着替えていた。
今の着物と同じような前合わせの直垂とちがって、水干は丸襟で、宮廷貴族っぽい印象になる。
さらに、直垂は全身同じ布で作られていて、ちょっと野暮ったく見えるのに対して、水干だと上下が違う生地になるので、コントラストが目を楽しませてくれる。
坂東武者の目には、時政の水干姿は、とっても雅なファッションに見えたのかもしれない。
坂東…関東に住む人々の都への憧れや崇敬は、ドラマのなかでいろいろな形で描かれている。
京都からの土産物、洗練された衣装、都から迎える後妻。平清盛への畏怖の念も、そこに混じりあっている。
頼朝を担ごうとしている坂東武者たちは、平家への反感は強そうだけど、都の文化に対しては素直に価値を置いているように見える。
けれどとドラマの主役の北条義時には、いまのところ、都や平家を強く意識している様子がない。
義時が大切に思うのは、まず身内の安寧であり、坂東武者の穏やかな暮らしなのであって、それを脅かすようなものがあれば、まず排除の気持ちが動く。
源氏嫡流の頼朝も、義時にとっては、当初は身内に不協和音と危険をもたらす異物にすぎなかった。
けれども頼朝は、今回のラストで北条義時に向かって、それまで誰にも見せたことのなかった心の内を、義時一人だけに明かしてみせ、
「法王様をお支えし、この世をあるべき姿に戻す!」
と宣言する。
その瞬間、頼朝は、義時の心の中で、守るべき「身内」に変貌してしまったらしい。
頼朝という人の、なんというか、寄生獣的な気持ちの悪さは、このあたりにあると思う。
平治の乱で処刑されるはずだったのに、敵側の中に助命に動いた人々がいたために、伊豆流罪で済んでしまう。
流罪されてからも、援助してくれる人々によって生活が守られる。上等な着物が用意され、偏食にも細々と配慮される。
監視者である伊東氏を後ろ盾にしようとして失敗し、伊東祐親に討たれそうになっても、今度は北条が命を張って守ってしまう。
寄生した相手から養分を吸い上げ、手足として働かせ、いいように振り回し、自分はみるみるうちに肥大して戦力を増強し、子孫も増やす。身内に不具合なパーツがあれば、アポトーシスも厭わない。
化け物だと思う。
でも結果的には、寄生獣、じゃなくて頼朝の嫡流は残らず死に絶え、義時の子孫が代々執権として続いていく。
頼朝とその信奉者に振り回されるうちに、がっつり心を掴まれて寄生されてしまった義時の心の中で、これからどんな変化が起きていくのだろう。