前回からだいぶ間が開きましたが、少しづつ続きを書いてみます。「古事記」の翻案です。
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怪しい古事記物語(1) ゾンビ大戦争からの誕生秘話 - 湯飲みの横に防水機能のない日記
禊(みそぎ)という名の単性生殖で、神々を次々と産み落としたイザナギノミコトは、最後に生まれた三柱の神が、神基準で見ても凄まじいハイスペックであることに、大いに満足した。
「やっぱりすごいわ俺。俺が、俺だけで産んだ子どもが凄いってことは、要するに俺が凄いっていうことの証明だもんな」
それからイザナギノミコトは、首にかけていたゴージャスなネックレスをしゃらしゃらいわせながら外すと、三柱のなかでも、ひときわ輝く天照大御神に持たせて、こう言い聞かせた。
「アマテラスちゃんや、お前は、神々が暮らす高天原の管理者になるのだよ」
新生児に命じる「はじめてのおつかい」が、神々の最高権力者の地位というあたりに、イザナギノミコトの親バカ炸裂の度合いを推し量りたくなる。
アマテラスちゃんが、生まれた瞬間から、既に神々の最高権力者にふさわしい資質を持つ存在だったとしても、もうちょっとこう、周囲との兼ね合いとか、然るべき教育期間を経てからの就任とか、いろいろと手順がありそうなものである。
まあ、単性生殖だろうが新生児だろうが、神なんだからなんでもアリと言われれば、そういうものかと思うしかないけれども。
いずれにせよ、出産でハイになっているイザナギパパの暴走を止められる者は、この世界には居なかった。
イザナギノミコトは、二人の息子にも仕事を命じた。
「月読命(ツクヨミノミコト)よ、お前は頭は良さそうだが、おとなしめの性格のようだな。派手な場は似合わないだろうから、夜の国を任せることにする。しっかりと治めるように」
光り輝くアマテラスちゃんの横にいたせいで、相対的に知性派の根暗認定されてしまったらしいツクヨミくんは、無表情に父の言葉を聞いていた。
「さて、建速須佐之男命(タケハヤスサノオノミコト)よ。末っ子のお前はどちらかというと筋肉バ…いや、パワータイプか。冒険向きかもしれん。よし、海の国を支配せよ」
脳筋扱いされたスサノオくんは、匍匐前進に熱中していたために、父の話を全く聞いていなかった。
息子たちへは命令だけで、誕プレはナシだった。
「というわけで、あとは各自うまくやるように。では解散!」
単性生殖の父神には、育児という概念は存在しなかった。
禊によって大量に産み落とされた幼い神たちは、守られることも、育まれることもなく、世に放たれ、サバイバル生活を送ることになる。
それは父神によって至高の三柱とされて支配者の地位を与えられた、アマテラス、ツクヨミ、スサノオたちも、同じであった。
しかしこの三柱の子の扱いには、あきらかな格差があった。
完成度の高い神の国と比べるならば、光のない夜や、未開の海原を貰った側は、どうしたって「それじゃない感」が生じるのではなかろうか。
ゾンビ化した愛妻と決別したばかりの夫としては、亡き妻とは似ても似つかぬ浄(きよ)らかな娘を、贔屓したくなる気持ちがあったのかもしれないが、子どもたちにしてみれば、理不尽な話でしかない。
やもめとなった国産みの神が、無意識に蒔いた家族問題の種は、のちに国を揺るがすハレンチ騒動を呼ぶことになる。
(つづく)