湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

万葉集 空腹の技法

(2005年06月27日)

 


高市岡本宮御宇天皇代 息長足日広額天皇

天皇香具山に登りて望国し給ひし時 御製の歌

 

大和には 群山あれど 取よろふ 天の香具山 登立ち 国見をすれば 国原は 煙立ち立つ 海原は かまめ立ち立つ うまし国ぞ 秋津島 大和の国は

 

万葉集 巻第一 2

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作者は舒明天皇天智天皇天武天皇の、父親である。


「とりよろふ」は、意味が分からないらしく、諸説ある。


「なんでもそろってる」「完全な資格をそなえている」「たよりになる」など、いろんな訳の試みがあるようだ。


たぶん誰もが不思議に思うだろうことは、香具山から「海原」なんて見えるのか、ということ。これもいろんな説があるようだけれど、当時はいくつか湖があって、そこに水鳥が飛来していたのを「かまめ」といったというのが、無難そうに思える。

 

「うまし国」の「うまし」というのも、よくわからない。

 

「国」にかかるのに、なんで連体形にならず、「うまし」と終止形のままなのか。国をほめるときの、固定的な言い方だったんだろうか。それとも、活用がちゃんと定着してなかったせいなのか。

 

ちなみにこの「うまし」は、シク活用で、意味は「満ち足りて快い気持ちだ」という風に、辞書では語釈がなされている。「おいしい」のほうの「うまし」は、ク活用なので、別の単語ということになる。

 

【意訳という名の何か】


---------- ある御方の、ぼやき ----------


 国見っていう、大切な行事だから、
 歌作れっていわれてもさあ。
 俺、そーゆーの苦手なんだよ。知ってるだろ?
 
 だいたいなあ、山なんかに登ってあたり見渡して、
 それで何言えばいいわけ?
 縁起のよさそうなこと?
 なんだよそれ。
 景色は景色じゃねーか。
 俺が言葉でどうこう言ったからって、
 景色がどうかするわけでもないだろ?
 え? どうかするんだって?

 五穀豊穣・国土保全・無病息災
 俺が国見すると、全部実現しちゃうと。


 お前ら、本気でそう思ってるわけ?
 マジかよ。
 ひょっとして、俺ら、怪しい宗教団体?
 でもって、俺様、怪しい教祖?
 ぐわああ。冗談だよっ。
 怒鳴って説教しながら迫ってくるなよ。
 唾液の飛まつがつめたいよ。

 はいはい、作りますよ歌。作ればいいんだろ。
 もうこうなりゃ、景色をそのまま詠んじまうぞ。
 それでいいって?
 なんだかなあ。

 
 「このあたりには、山がいっぱいある」

 

 ほら言ったぞ。これでいいか?
 いいけど足りねえって?
 いいのかよ、ほんとに。

 

 「俺は今日、香具山を登山している。いま頂上でパノラマ鑑賞中」

 

 なんで香具山かって?
 そりゃ低くてラクに登れるからだよな。
 儀式用には最適。

 
 「平野には、煙がいっぱい立っている」

 
 何の煙なんだ、あれ。
 火事でもやらかしてんのかね。
 え、違う?
 あれは民草のかまどの煙でございます、と。
 あっそう。
 まあ、あの煙が全部火事じゃ、大変だわな。

 そっか。そろそろメシどきだな。
 腹減ったぞ。
 食いもん、ねーの?
 歌、つくっちまってから食事にするって?
 ちぇっ、分かったよ。
 そんなら、ちゃっちゃっと作ろーぜ。


 「あっちの水溜りに、へんな鳥がたかってます」


 水溜りじゃなくて、湖だって?
 あのあたり、湿地帯だっけか。
 鳥は、カモメかな。
 海でもねーのに、けっこう飛んでくるんだな。
 ご苦労さんなこった。
 水溜りじゃしょぼいから、海にしろってか。


 「大海原には、カモメが多数飛来している」

 

 いいのかよ、こんなウソ詠んで。
 言葉にすれば、それが事実になるからいいんだって?
 俺、その思想、わかんねー。
 あーはいはい。説教は結構。
 余計腹減るだろ。

 

 そういや、カモメって食えんの?
 ふむ、タマゴも肉も、かなり臭いから、料理が難しい、と。
 そりゃ残念だな。
 あんなに飛んでんだから、獲って食えりゃ便利なのにな。


 ま、他にもうまいもんがあるんだから、いいか。


 そろそろシメるぞ、歌。

 

 「トンボの交尾みたいな形で有名な、大和の国は、おいしい国だ」

 

 で、昼飯、何?
 弁当の用意がないから、
 山おりてから食事にするだと?
 ふっざけんなよ。話違うだろ。
 反歌なんか作ってられっか。
 やめやめ。帰るぞ。