湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

万葉集 テコナちゃんシリーズ 1

(2005年06月26日)
⭐︎過去日記を転載しています。

 


勝鹿真間の手児名の娘子を詠む歌一首

 

鶏が鳴く 東の国に 古(いにしへ)に ありけることと 今までに 絶えず言ひける 勝鹿の 真間の手児名が 麻衣(あさぎぬ)に 青衿(あをくび)着け ひたさ麻(を)を 裳には織り着て 髪だにも 掻きは梳(けづ)らず 沓をだに はかず行けども 錦綾(にしきあや)の 中に包める 斎(いは)ひ子も 妹にしかめや 望月の 足れる面(おも)わに 花のごと 笑みて立てれば 夏虫の火に入るがごと 湊(みなと)入りに 舟漕ぐごとく 行きかぐれ 人の言ふ時 いくばくも 生けらじものを 何すとか 身をたな知りて 波の音の 騒く港の 奥つ城(き)に 妹が臥(こ)やせる 遠き代に ありけることを 昨日しも 見けむがごとも 思ほゆるかも  

 

万葉集 巻第九 1807

 

 


悲劇の美少女、真間の手児名伝説を詠んだ歌である。


作者は高橋連虫麻呂。

 

真間の手児名は、千葉県市川市真間町のあたりに住んでいたらしい。

 

彼女の伝説はいくつかあって、求愛してくる男どもの争いを鎮めるために自殺したというもののほか、継母にいびり殺されたという説もあるという。この歌は、前者のパターン。

 

【妄想入り意訳】


------------ 真間の手児名の物語 -----------


 ニワトリが鳴くと、夫が妻に非情にもたたき起こされるという、恐るべき東の国、千葉県市川市

 そこでは、ある娘に関する言い伝えが、絶えず語り継がれている。

 娘の名は、テコナちゃん。葛飾の真間に住んでいたという。

 抱っこして歩きたい美少女ナンバーワンであった彼女は、いつもシンプルな麻の服に、ちょっとマニッシュな青い襟をあしらって、自分で織った麻百パーセントのリンネルで作った巻きスカートを履き、ヘアスタイルにもほとんどかまわず、いつもナマ足で歩いてるけど、ゴージャスなブロケード素材のドレスにつつまれた箱入り娘も、思わず真っ青の愛らしさ。

 

 彼女が、そのパツンパツンのフルムーンフェィスで、花のように笑って立っているだけで、馬鹿な男どもは、わらわらと飛んで火にいる夏虫状態。可憐な港に向かって怒涛の如く押し寄せる、恋のボートピープル状態。


「テコナちゃんをゲットするのは、この俺だ!」
「やかましいっ、俺こそあの子にふさわしいんだ!」
「てめーらまとめて引っ込んでろ! テコナちゃんは俺がもらう!」
「お前こそ引っ込め、このロリコン野郎!」
「そーゆーお前はどーなんだよ」
「こうなりゃ決闘だな。勝ち抜き戦で決めるぞ!」
「てことは、幼なじみの俺様はシード権確保だな」
「何が幼なじみだ。家が近所だっただけで、口きいたこともないくせによ」
「徹頭徹尾、腕力勝負、死んでも恨みっこなしだぞ。怖いやつはすっこんでろ!」
「受けて立ってやらあ! お前ら全員、死なーす!」


 だけど、バカ男どもは死ななかった。

 死んだのは、テコナちゃん、ただ一人。

 何もわざわざ死ななくたって、人の命はそれほど長くもないものを。どうしたわけか、思いつめてしまった挙句、彼女はいま、土の中に横たわっている。あの男どものように波音のやかましい港を、しずかに見守りながら。

 遠い昔のことだけれど、つい昨日のことのように、あのテコナちゃんの笑顔とその死を思い出さずにはいられない。テコナちゃん、フォーエバー・・・。

 

 

 

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