湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

万葉集 真夏の夜の不詳

(2005年06月23日)

⭐︎過去日記を転載しています。

 

怕(おそ)ろしき物の歌三首

 

天なるや 神楽良(ささら)の小野(をの)に 茅草(ちがや)刈り 草刈(かやか)りばかに 鶉(うづら)を立つも  (3887)

 

沖つ国 うしはく君が 塗り屋形 丹塗りの屋形 神が門(と)渡る  (3888)

 

人魂の さ青なる君が ただひとり逢へりし夜の 葉非左し思ほゆ  (3889)

 

万葉集 巻第じゅうろ

 

 

 

これらは、おそろしき歌であるという。

しかし、どのあたりがおそろしいのか、よくわからない。

 

まず3887の歌。

 

「ささら」は、小さくて、細かくて、愛らしいことだが、「神楽良(ささら)の小野(をの)」とは、架空の地名であるらしい。「天なるや」と、天上界にあるとも考えられていたようである。ようするに、どこにあるのか、分からない。

 

「かりばか」は、稲や萱を刈るのと決めた範囲。またその仕事の量をいう。

 

どこにあるのか分からない、天上界の野原で、茅を刈っていたら、ウズラが飛び上がった。

 

びっくりはするかもしれない。
しかし、これ、おそろしいだろうか。
よくわからない。


次、3888の歌。

 

沖つ国というのは、海のかなたにあって、死者だの霊魂だのが住むと考えられていたらしい。

 

「うしはく」は、主として、その土地を支配すること。

 

「神が門」は、神霊、海神などが支配する、恐ろしい海峡。

 

冥土の主が丹塗りの屋形船に乗って、神のいる海峡を渡る。

 

恐ろしいような気がしないでもないが、具体的にどう恐ろしいのか、いまひとつはっきりしない。


最後の3889の歌。

 

出だしに「人魂」なんてあって、一番恐そうだけれど、これが一番分からない。なぜかというと、読みも意味も分からない語が含まれているからだ。


ヒトダマみたいに真っ青な君が、ひとりで逢った夜の「葉非左」が思われる、というのだが、この「葉非左」が難訓で、どうにも解釈できないのである。


一体、何がどう恐かったのか。
どうやら三首とも、この世ならぬものを歌っているらしいのは、なんとなく分かるのだが。

 

 

       《意訳もどき》


  ---------- 共寝の友 ---------

 

「暑いな」
「そうだな」
「蒸し蒸しするな」
「だな」
「寝られんな」
「そうか」
「なんとかならんか」
「ならん」
「寝不足なんだが」
「知らん」
「なんだよ、付き合い悪いな」
「俺はもう眠いんだよ」
「なあ、なんか涼しくなる話、してくれよ」
「いやだ」
「なんで」
「怪談だろ? 嫌いなんだよ」
「だから、なんで」
「眠れなくなるだろーが」
「だけど涼しくなるだろ?」
「いらん。俺、暑くても寝られるし」
「じゃ、おれが語る。怖い話、その一。むかーしむかし、あるところに」
「ぐー」
「小さな野原がありました。そこでお前は、カヤを刈っていました」
「・・・・俺かよ」
「お前だ。その野原は、神の住む天上界にありました。お前は恐れ多くも神の世界にチン入し、図々しくも神の所有するところのカヤをガメようとしておりました」
「はあ?」
「もちろん神がそれを見過ごしたもうはずがありません。お前には天罰がどしゃーんと下り、足元から飛び立ったウズラの羽音にびっくらこいて仰向けに転倒。脳挫傷でくたばりました」
「・・・いやな話だな」
「死んだお前のチープな魂は、そのまま天上界から掃き出され、海の向こうの亡者の国に墜落しました」
「・・・」
「地面にキスした衝撃で、お前はぺっちゃんこに潰れましたが、もう死んでるので血も出ません。で、そこで地元の船乗りに拾われて、冥王の船の掃除夫として雇ってもらいました、というのは表向きの役職で、要するに、とっつかまって奴隷にされたわけ」
「なんでだよ」
「こういう話のお約束だから」
「はあ?」
「ところが冥王の船は、場所もあろうに神のいる海峡に向かっていたのです。神と冥王は、目下のところ痴話喧嘩の真っ最中・・・」
「ちょっと待て。喧嘩は分かるけど、痴話ってなんだよ。仮にも神と冥王だろ? 痴話はないだろう」
「そーゆー仲なんだよ」
「なんだそりゃ」
「二人いたら迷惑極まりないのが神とかいう種族の相場だろ? ま、そういうことで、船上のお前は絶体絶命」
「だから、何で。所詮痴話喧嘩なんだろ? 絶対絶命はやりすぎだろ」
「神はイケニエが好きなんだよ」
「俺、魂だろ? 生きてねーだろ」
「いいんだよ、使い捨てだから」
「わけわかんねーよ」
「冥王とお前の乗った真っ赤な屋形船は、交差点で神の祠にミラーを擦っていちゃもんをつけられた。そこでお前はついつい大声で啖呵を切った。『バカにしないでよっ。そっちのせいよっ』」
「いつの時代の歌謡曲だよ。言わねーよそんなこと」
「そういうわけで、お前はイケニエに決定し、もともとチープな魂は、さまようヒトダマへと格下げされました」
「・・・・」
「天上からも冥界からも捨てられたお前のヒトダマは、蒼白になってこの世に舞い戻ってきやがりました。そのままチンケな浮遊霊に成り下がるかと思いきや!」
「どうなったんだよ」
「なんと、葉非左が現れたんだな」
「なんだ、それ」
「知らねー」
「読み方は」
「さあな。誰も読めねーから」
「どーゆーものなんだよ」
「謎」
「何しに出てきたんだ、そいつ」
「わかんねーけど、間違いなくそいつは不幸なやつだよ」
「なんで?」
「だって、お前に出くわしたんだぞ」
「だから何だよ」
「俺は葉非左のそのときの気持ちが思われて、気の毒でならないね」
「あのなあ」
「かわいそうな葉非左。いたいけな葉非左に、なぜこのような痛ましい運命が降りかからなければならないのか。同情を禁じえない」
「・・・勝手にやってろ。俺は寝る」
「あ、こら。ずるいぞ」
「ぐー」
「暑い夜に一人でさっさと寝るなー。俺が淋しいだろー?」

 

 

 

 

 

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