何年かまえ、友人に勧められて、「ロレンツォのオイル」という映画を見た。
白質ジストロフィという難病中の難病に冒され、余命いくばくもないと宣告された少年の両親が、懸命に治療法を研究し、我が子の命を救うという、実話を基にした物語である。
ロレンツォ君の病気は、先天的に、必須脂肪酸の代謝がうまくいかず、脳神経の線維を包み込んでいるミエリンという箇所が致命的なまでに破壊されてしまうというものである。最初は注意欠陥多動性障害のような症状を呈し、次第に視覚や聴覚などの感覚の受容や運動も困難になり、最後には呼吸なども自力ではできなくなって、死にいたる。
この映画を見たとき、ロレンツォ君の症状が、どこか自閉症の息子の様子と重なるものがあることに気づいた。
息子は白質ジストロフィではないし、運動や感覚受容の困難はあっても、ごく軽いもので、それが進行するということもない。でも、その後もずっと、この映画のことが頭から離れることはなかった。
息子が四歳のとき、何度目かの脳のCT撮影をしたのだが、フィルムに映し出された大脳の様子をみた主治医が、どうも脳の表面のシワが少ない、これはミエリンの発達がかなり悪いせいだ、と指摘した。
映画を見たときに、ロレンツォ君と息子が「似ている」と感じたことが、まるっきり見当違いでもなかったわけである。
それ以来、映画のロレンツォ君のモデルになった少年の「その後」が気になってしかたがなかった。けれども、ネットで散々探しても、確かな情報はなく、もしかしたら、もう亡くなってしまったのかもしれないとも思った。
先週、アマゾンで、必須脂肪酸の代謝について書かれた本を買った。その本の巻頭には、知りたいと切望していたロレンツォ君のその後のことが書かれていた。
その本によると、近年、DHAなどの必須脂肪酸の適切な投与によって、白質ジストロフィの病状改善の可能性が見出されつつあるという。
彼は生きていて、父親とパソコンで会話するところまで、回復しているのだという。映画で懸命の看護をしていた母親は、残念なことに、肺がんで亡くなってしまったそうだ。
2005年05月31日
※過去日記を転載しています。