湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

そうは見えないから起きる齟齬

息子の幼児教室からの帰り、車をとめた駐車場で料金精算していると、そこの窓口の、世話好きそうなおじさんが、前々から聞きたくて仕方がなかったという口調で言った。

 

「ねえ、ボク、どこに行ってるの? お勉強? 塾通いなの?」

 

うーむ、やっぱり来たか、と内心思った。

 

聞かれそうな気配は、数週間前からすでにあった。聞かれたら、いつものように、素直に答えようとも思っていた。でも、私が質問に正直に答えた場合、おじさんのその後の反応がどうなるか、ほとんど全部読めてしまうのである。そしてその場合、会話は相当に長引くであろうことも、想像がつくのであった。なにしろ、ここの駐車場の歴代のおじさん、おばさんたちが、全員そうだったからである。

 

心のなかで深呼吸したあと、私は努めてにこやかに答えた。

 

「あ、えーと、お勉強っていうか、障害児のための訓練に、通ってるんですけどー」
「え、障害? このボクが? 障害って、どういう?」
自閉症っていうのなんですけどー(にこにこ)」
「ああ、こりゃ申し訳ない。でも、 うーん、見えないなあ」
「言葉しゃべれなくてー(にこにこ)」
「ええっ、しゃべれない? ほんとに? この子が? うーん、ごめんなボク」
「見かけじゃ、わかんないですよねー、まだ(謝んなくてもいいのにと思いつつ、にこにこ)」
「うーん・・・・でも、そのうち治るんだろ? 大きくなったらさあ」
「病院では一生治らないって、言われてますけどねー(にこにこ)」
「うーん、治るよ絶対。だってさあ・・・あのね、うちの向かいにね、その、そういう人達の、ええと養護学校っての? それの関連の作業所があるんだけど、そこにさあ、若い男の子が来るんだけど、もう、すごいんだよね、絶叫が」
「ああ、パニックですねえ(にこにこ)」
「うん、それ。仕事すんのがイヤなのか、みんなと一緒にいるのがイヤなのか、わかんないけどさあ、すごいの、ほんとに。でさあ、ボクちゃんは、ちがうでしょ? そういうのとはさあ」
「おんなじですよー。いまも大騒ぎしてきたとこですしー(にこにこ)」
「え・・・・そうなの? でも、治るよ、うん。治る治る。いまからがんばってるんだからさあ。なあお母さん。心配することないんだよ。治るんだから」
「だといいですねー(にこにこ)」
「がんばれよ、ボクちゃん、がんばれよおっ」

 

偶然だとは思うのだが、こういう問答をすると、その直後に、ここの窓口係は、別の人に入れ替わることになっている。

 

今日のおじさんは、うちの息子ぐらいの孫がいそうな年齢の人だった。自閉症の幼児を目の当たりにしたことで、おじさんは、見た目にはっきりと分かるほどショックを受けていた。こんなときに限って、息子がまた、天使みたいな無垢の風情で佇んでいたりするものだから、なおいけない。

 

もうずいぶん慣れたけれど、終ったあとにも、やはりニ、三度、心の中で深呼吸をすることになるのであった。

 

 



2001年9月7日

(※過去日記を転載しています)

 

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