皮膚が青黒く腐れ落ちつつある死体もしくはゾンビを至近距離で見たあとに、それらとなんとなく風合いが近い……と言えなくもない「なれずし」をいただく勇気を持てる日本人は、どのくらいいるだろう。
私はたぶん無理だと思う。
「なれずし」じゃなくても、そもそも食事が無理だろうけど。
でも、「高慢と偏見とゾンビ」に出てくるイギリスの紳士や淑女たちは、全く気にせず日本の珍味を味わうようだ。
ふたりが訪ねてきたことで、もうひとつ普段と異なることが起きた。召使たちが、冷肉や砂糖菓子やさまざまな日本の珍味を運んできたのだ。これ全員が手持ちぶさたから解放された。そろって会話を楽しむことはできなくても、食事を楽しむことならできる。
美しくピラミッド型に盛り上げられたハム、砂糖菓子、ナレズシに引き寄せられて、たちまちみんながテーブルのまわりに集まった。
ジェイン・オースティン&セス・グレアム=スミス「高慢と偏見とゾンビ」
砂糖菓子と「なれずし」の取り合わせも、なかなか強烈な気もするけど、ゾンビよりはマシかもしれない。
ミスター・ダーシーの屋敷で行われた、この会食シーンは、映画版には残念ながら出てこなかった。
オースティンの「高慢と偏見」にゾンビを感染させた作者のセス・グレアム=スミス氏は、日本文化に精通しているわけではないのか、作中のヒーローであるミスター・ダーシーの館の女中頭が「キモノ」を着て「纏足」をしていたりする。
日本の武道こそ最高だと考えるミスター・ダーシーの取り巻きたちが、中国のカンフーを習得したエリザベスやその姉妹を侮蔑するという話の流れがあるので、この女中頭の装束のミスマッチにはギョッとさせられたのだけど、もしかしたら作者のミスではなく、いずれダーシーとエリザベスが結ばれることを暗示するサインだったりするのだろうか。さすがに考えすぎか。
それはともかく、鯖寿司かバッテラ寿司がとても食べたくなった。
なれ鮨は、なかなか機会がなくて、まだ食べたことがない。
物語のなかの料理……サンドイッチ - 湯飲みの横に防水機能のない日記