Amazon prime Videoでミュージカル映画「シンデレラ」を見た。
原作と違って、悪者が一人も出てこない。
あったかくて読後感の爽快な異世界恋愛ラノベみたいなお話だった。
ストーリーは、継子いじめ、定番の舞踏会での運命の出会い、置き土産のガラスの靴、そして再会と、原作の主要なポイントは押さえているけど、それ以外の要素は徹底的に遊ばれている。
まず、衣装と馬車をくれるのが魔女じゃなくて、ファビュラスゴッドマザーという、ゴージャスな黄金ドレスを着たオッサンだった。しかも彼（彼女？）はシンデレラが芋虫から育てた蝶だった。
そして、王子には内政オタクの妹姫がいた。最終的には彼女が王位を継承することになる。
さらに国王夫妻は仮面夫婦状態で、常に王家の体面ばかり優先させて妻の心情を全く顧みない夫に、王妃は内心愛想をつかしている。
そんな寒々しい両親を見て育った王子は、父王が求める政略結婚や、王子の地位に群がる肉食女子たちを毛嫌いして、頑として縁談を受け入れない。
そんな王子が絶唱するのはクイーンのSomebody to love。ミュージカルだから、誰も彼も激しく踊って歌う。
そのシーンを見ていて、亡きヒース・レジャー主演の「ロック・ユー」を思い出した。あの映画もヒストリカル・ロマンスなのに、クイーンの曲が使われていた。
継母はシンデレラをこきつかっていじめるけど、心の内には継娘の人生を守ろうとする切ない思いがあった。
シンデレラには仕立て屋として身を立てたいと言う夢があるのだけど、彼女の住む国では女性が才能を発揮して職業につくことを頑として認めない風習があった。
女性が自分の意見を言うことも好まれず、王妃や王女であっても、国王に意見を述べたり、国政に口を出すことを許されない。
若い頃ピアニストを志していた継母は、夢を叶えようとしたために、最初の夫に捨てられた過去があった。継母にとって、分不相応な夢は女を不幸にするものでしかなかった。だから、継娘のシンデレラの夢を諦めさせて、無難な結婚をさせようと、底意地の悪い態度を取り続けていたのだ。
義理の姉たちは、二人ともだいぶ奇天烈なタイプだけど、シンデレラが傷つくのを見ながら、決して喜んではいなかった。継母自身、シンデレラを散々罵倒したあと、実の娘たちと一緒になって忸怩たる思いを抱いている様子なのが、なかなかおかしかった。本当はいい人なのに、無理しているのだ。
原作と最も違っているのは、舞踏会で王子に見初められて求婚されたシンデレラが、キッパリとお断りするところだろう。
王子はシンデレラが仕立て屋になる夢を持っているのを知りながら、当然のように夢を諦めることを求めた。シンデレラにも王子に恋する気持ちはあったけれども、夢を捨てて生きられる気がしなかったのだろう。
その後、シンデレラが王子の思い人だと知った継母は、王子の求婚を受け入れるようにと必死で説得するものの、シンデレラが何としても受け入れないため、別の男との縁談をまとめることを決めてしまう。
縁談から逃げ出したシンデレラは、自分の才能を買ってスカウトしてくれた外国の女王の元へ走る。
一方そのころ、王家ではロイヤルな夫婦喧嘩が勃発。「結婚に愛情などいらない」と断言した国王に対して長年の怒りを爆発させた王妃は、そのまま国王をシカトするようになり、不安にかられた国王が擦り寄ってくると、徹底的に罵倒する。それで目の覚めた国王は、王子に政略結婚を強いるのをやめて、自由に生きることを許す。
結局、王子は王位継承権を捨ててシンデレラと共に外国へ行くことに。
ラストはなぜかラテンミュージックに合わせて国中の人々が歌って踊って終わった。継母もシンデレラに感化されて女の人生を縛る固定観念から解放されたっぽいので、のちにピアニストの夢を叶えるのかもしれない。
実写版シンデレラを演じているのは、カミラ・カベロという女優さん。歌うときと笑うときの大きな口が、ものすごくチャーミングで、印象的だった。
母親役の人々も個性的だった。
シンデレラの継母は、イディナ・メンゼル、王妃はミニー・ドライヴァーという女優さんだという。
王子役はニコラス・ガリツィンという俳優さんだそうで、いかにも正統派王子という感じだった。
強烈な印象を残したファビュラス・ゴッドマザー役は、ビリー・ポーターという俳優さんで、検索してみたら、漆黒のドレスを着て夫と並ぶ結婚写真が出てきた。実生活でもファビュラス・ゴッドマザーなのかもしれない。
