Amazonのレビュー欄の謎
Amazonのレビュー欄を見ると、どうしてわざわざこんなレビューを投稿するのだろうと問いたくなるような、びっくりなレビューに遭遇することがある。
いちばん驚くのは、
「読んでません」
というレビュー。そして低評価。なぜ、読んでから投稿しないのだろうか。投稿しないという選択肢は、なかったのだろうか。
「思っていた内容と違っていた」
という低評価も、よく見かける。それって、作品自体の評価とは関係ないと思うのだけど、違うのだろうか。
明治期の作品には、口語文であっても、
「言葉の意味が分からなかった」
「読めない」
という低評価がつくことがあって、まあ仕方がないのかなと思わなくもないけれども、与謝野晶子訳の「源氏物語」(青空文庫版 0円)に、
「行書で書かれていて読めない」
という低評価のコメントが付いているのを見たときには、目を疑った。
私もダウンロードして持っているし、読んでもいるけど、どう見ても本文は行書ではない。行書フォントで表示されてしまうkindleユーザーがいるのだろうか。謎すぎる。
それと、低評価ではないけれど、kindleの青空文庫版の書籍に、英文でレビューを書いている人たちが多数いて、その多くの文中に、
This is one of those books that I will keep thinking of and won't easily forget.
This is, hands down, one of the best and most powerful books I've ever read in my life.
といった文が、コピペのように入っているのは、何なんだろう。
同じような疑問を抱いた人がいたらしく、Yahoo知恵袋に質問があるのを見つけた。
このベストアンサーによると、Amazon First Readsという、アメリカのAmazonのサービスで紹介されている書籍を読んだユーザーが、英語でレビューを書いている可能性がある、ということのようだった。
でも、青空文庫に英文レビューを書いている人たちのなかには、他の書籍や商品には普通に日本語でレビューを書いたりしていて、その内容も、日本在住の日本人としか思えないものだったりする。それに、必ずしも紋切り型のレビューばかりではなく、作品内容に触れているものもある。
レビュー欄に、何が起きているのだろう。
ちょっと気になるので、観察を続けてみることにする。
ラノベ読書メモ
「覚えてないから、女王辞めていいですか!?」(高久やや子 著)
kindle unlimited(読み放題)で読んだ作品。
いわゆる記憶喪失ものだけれど、ちょっとビックリな展開だった。
一国の女王である主人公は、頭を打って記憶を失い、十六歳の自分に戻ってしまう。で、いろいろあって記憶を取り戻すのだけど、その取り戻した記憶というのが凄かった。
高齢の父国王と年の離れた兄王子に可愛がられて育った主人公は、あまたの中高年貴族を手玉にとって浮名を流しつつ、心の中では自分より年下の有能な青年に恋をし、なおかつ強いコンプレックスも抱いているという、屈折した女性だったのだ。
兄夫婦が子供を残さずに事故死したときに、片思いの相手を宰相兼自分の夫として、猛烈に子づくりに励んでいたのだけれど、その経緯をすっぽり忘れて、無垢だった少女時代に戻ってしまったため、夫婦関係も政務も大混乱。
そんなときに、実は兄夫婦暗殺の黒幕である隣国の国王が、記憶を失って弱体化した女王を国ごと寝取ろうと接近してきたけれど、その直前に記憶を取り戻した女王の妖艶な手管にあっさり陥落し、自分が暗殺されることに。
女王と宰相の夫婦仲ももとにもどって、めでたしめでたし…。
傾国の美女という言葉があるけど、この主人公は、救国の艶女というべきかもしれない。
「悪役令嬢がポンコツすぎて、王子と婚約破棄に至りません」(榎木ユウ 著)
こちらも、kindle unlimited(読み放題)で読んだ作品。
主人公は、とある事情から、王子との婚約破棄を計画するのだけど、 婚約者である王子の溺愛に阻まれて、なかなかうまくいかない。
主人公としては、王子に別の女性をあてがって恋愛してもらい、自分は悪役令嬢として悪辣の限りを尽くすつもりだったのに、恋人役に選んだ少女に自分が惚れこんで親友になってしまうし、少女のほうも主人公の人柄を慕うあまり、王子と恋仲になるどころかライバルのような関係になってしまう。
奇行が多くてタイトルでもポンコツと言われている主人公だけれど、実は高潔で情の深いすてきな女性だったのだ。
そんな奇妙な三角関係が続くなか、主人公が何者かに命を狙われるという事件が起きる。あやうく命を落としかけた主人公を救った王子と少女とは、その後も共に主人公を守りぬこうと決意。
その後、主人公を婚約破棄に駆り立てた事情も無事に解決し、いろいろとハッピーエンドに。楽しいお話だったけど、もう少し続きが読みたいような物足りなさもあった。
「俺様主人の理不尽な要求 毒舌メイドは素直になれない」(ちろりん 著)
ハイスペックなのに、女性への態度が残念すぎて結婚相手が見つからないご主人様と、DV家庭に育ったせいで、男性不信で結婚願望が皆無のメイドのお話。
高すぎる理想を振りかざすせいで、デートのたびに女性にフラれて帰宅するご主人様の進歩のなさにうんざりしたメイドは、試しに自分とデートしてみないかと申し出てしまう。てっきり断られると思ったのに、なぜか乗り気になったご主人様は、ドレスや靴をメイドに送り、最高のデートを実現すべく奮戦。
結果、ご主人様は、メイドこそが自分の理想の女性であり、恋心を抱く相手であることに気づいて、結婚を申し込む。メイドのほうも、ご主人様を大切に思う気持ちはあるものの、父親のDVがトラウマになって、とても結婚する気にはなれない。
そうこうするうちに、メイドの最愛の姉が育児疲れで倒れてしまう。メイドは職を辞して姉を支えようと決意するのだけど、彼女を手放す気のないご主人様は、姉と子どもを自邸に引き取って世話をすると宣言し、なぜか自分も育児に参加。傲慢でプライドの高いご主人様が、一生懸命乳児の世話をする姿をみるうちに、メイドのトラウマも少しづつ癒されたのか、結婚を受け入れることに。
なんかこう、妻をいたわらない男性たちに、薬にして飲ませたいようなお話だった。もしかしたら、作者さんにもそういう意図があったのかも。
「笑わぬ侯爵の一途な熱愛 押しかけ幼妻は蜜夜に溺れる」(すずね凛 著)
タイトルには「押しかけ幼妻」とあるけれど、この「笑わぬ侯爵」は、妻が幼女だった時に、墓場の前で結婚を約束して、証書まで渡している。身寄りに死なれたばかりだった彼女は、その約束だけを心の支えにして、養い親の冷たい仕打ちに耐え続けて生きてきたのだ。
それなのに、この公爵、もともと独身主義だった上に、約束のこともすっかり忘れていていたので、屋敷を訪ねてきた彼女を即座に追い返してしまう。
公爵としても、まさか幼い子どもがそこまで本気で受け止めるとは思わなかったのだろうけども、幼くて純粋だからこそ、絶望の底に差し込んできた希望の言葉を信頼してしまったわけで、そういう彼女を傷つけたことによる公爵のマイナスポイントは、いくらあとから溺愛しても、最後まで挽回できずに終わったように思う。
しかもこの公爵、愛妻が政敵に狙われる可能性を考えず、まんまと誘拐されてしまうし。
それにくらべて、幼妻のほうは、夫のためにたゆまぬ努力をする心がけといい、必要とあらばさっと身を引く覚悟といい、ほんとうによくできた女性だった。
それにしても、日本で普通に暮らしていたら、貴族だの令嬢だのにはほぼ無縁の人生だと思うのだけども、物語(ラノベ)の世界のヒロインたちは、強固な身分制度に縛られていることがとても多い。身分の高いヒロインは、まず間違いなく恋愛の自由は許されていないし、没落した家のヒロインは差別や貧困、職業選択の不自由に苦しんでいる。
面白がって多読している私が言うのも何だけど、どうして、いまの日本で、女性がことさらに不自由な生き方を強いられるような世界観の物語が好まれるのか、不思議ではある。
いまの世の中の流れみたいなのと、何か関係あるんだろうか。
よくわからない。