「小説家になろう」で、「シャバの『普通』は難しい」(中村 颯希 著)を読了。
特殊な監獄の中で、囚人の母親に産み落とされたエルマという少女が、王城のメイドとして働き始めるところから、お話が始まる。
エルマの育った監獄は、人間離れした特殊技能を持つ囚人たちによって、秘密裏に制圧・運営されており、国家予算を凌駕するほどの資産と軍事力を有していた。
エルマは囚人たちの最愛の娘として、とんでもない英才教育を施されたために、あらゆることに秀でた、人間味の薄いスーパーガールに育ってしまう。
何をやっても非常識なレベルで成功してしまう彼女が、唯一苦手とすることは、大半のシャバの人々のように、「普通」に行動することだった。
序盤はエルマの無双っぷりが炸裂しすぎて、他の「普通」の登場人物たちとの関係性が、
「無双(ボケ)」と「驚愕(ツッコミ)」
だけに終始してしまうので、ちょっと物足りなく感じた。
なにしろ、あらゆる困難を軽く突破して自己完結してしまう主人公だから、他人への興味や執着が薄く、そのせいで周囲がもれなくモブに見えてしまうのだ。
けれどもエルマには、シャバで「普通」になるという、本人のスペックではおよそ実現困難な目標を達成しなければ、生まれ故郷の監獄に帰ることを許されないという事情があった。
頑張れば頑張るほど異能性を発揮してしまうことに葛藤し、そんな自分を理解して支えようとしてくれる友人たちと繋がることで、エルマは徐々にではあるものの、人間らしい感情を知り、「普通」方向へと心を成熟させていく。
最終的にには、男女間の能力差や感受性のバランスが悪すぎて、とても無理だろうと思われた恋愛関係さえも、(作者さんの)力技で成就して、ハッピーエンドを迎えるのだった。
序盤のエルマの無双状態を読んでいて、「坂本ですが?」という漫画の主人公の坂本君を思い出した。
「坂本ですが?」は一巻しか読んでいないのだけど、彼もあさっての方向に優秀すぎて自己完結してしまうキャラだった。
続きの巻では、多少なりとも人間らしくなったんだろうか。
「シャバの『普通』は難しい」は、kindle本にもなっていて、コミックも出ているようだ。コミック、読んでみたいな。