【女たらし】
美貌と巧言とで次つぎに女性を誘惑し、遍歴することに生きがい
を感じる反社会的な男。
何度読んでも「反社会的」のところで、ぷ、と吹き出す。ちなみにこの辞書に「男たらし」の項はない。
「ねえ、西武のエラいひとで作家になったひと、しってる?」
「堤清二か。ペンネームが辻井喬、やったかな」
「ブンガクとか小説とか読んでる気配ないのに、なんで何でも知ってんの」
「お前はいしいひさいちの『国土コレアキ』ネタを知らんのか。あの、腹ちがいの兄弟がいくらでも発見される社長のおっさんの話」
「あ。あれってもしかして、西武グループのゴシップが元ネタなわけ?」
「当然やろが、あの名前」
「ふーん……堤兄弟のお父さんって、どんなひとだったのかなあ」
「ひと昔まえのいわゆる成り上がりタイプちゃうか。もとは近江商人やったかな」
「おめかけさんとか、いっぱいいたのかなあ」
「さあなあ」
「そういうのってさあ、おもしろいのかなあ」
「なにが」
「そーゆーエラいひとが愛人囲って浮気するタイプの恋愛」
「ある種の拡大再生産志向ちゃうか」
「何それ」
「新しい女とつきあうと、それに付随して自動的に新しい生活の局面とか状況
とかが生まれるわけやろ。そういう刺激でリフレッシュして、人生の生産性を
高めるわけやね」
「腹ちがいのコドモをいっぱい作るってこと?」
「そういう生産性とは別のもんも向上するやろ」
「仕事の活力とかかな」
「まあな」
「作家がいっぱい小説書けたりとか」
「そーゆー場合もあるやろな」
「なんか、滋養強壮ドリンクみたい。愛人」
「自我が脆弱で女にのめり込むのもあるけどな」
「ごビョーキってやつ。生産性低そう。しかしその滋養強壮恋愛って、いつかツケが回ってくるってこと、ないのかなあ」
「なんで」
「だって、ヒトの人生利用して元気になるわけでしょ。なんかものすごい請求
書が届きそうじゃない」
「かもな。わしは知らんが」
「ときどき、学者のおじさんが弟子と恋愛して奥さん捨てる話があるじゃない。あーゆーの、どう思う?」
「まあ事情はいろいろやろけど、概ねわしはあんまり感心せん」
「なんで」
「そーゆー女の弟子が結婚後名を馳せたちゅう話、お前聞いたことあるか」
「あんまりないよーな気がする」
「○○先生の奥さんになった人ちゅうのが肩書みたいになったりするやろ」
「だね」
「そういう弟子ちゅうのは、自分と同質で、しかも小粒なわけやろ。なんでわざわざそういうのつかまえて恋愛せなならんのや」
「もとの奥さんより、いい理解者になるとかじゃないの? 同業だしさ」
「そういうとこで甘えた関係を必要とするところに学者としての精神の脆弱さを感じるわけや。自立でけへん人間が都合よく小さくまとまった恋愛して、なんかマシなもんを生産できるとは思えん」
「自分が悪妻もらってるだけあって、説得力あるね。今年論文四本目だっけ。子育てもよろしくね」
「やかましい。わしは大変なのじゃ」
(1996年11月29日)
※過去日記を転載ています。