湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

夢日記

コドモの夢を見ていたら、コドモの声で起こされた。

 

「すんすん、すすすすんすんすんすん、おわ~い」

 

夢があんまりひどいので見かねて起こしたのかもしれない。

 

コドモがさらわれる夢だった。
まずさらわれるパターンが何通りも試され、繰り返された。
立ち寄った夏の木陰からも、大通りのデパートの通路からも、自宅の窓の下からも、コドモはすっといなくなった。

すべてのパターンが成功すると分かったとき、誘拐者は一瞬だけ黒い姿を見せて、そして消えた。

同時に街のあらゆる場所からコドモの気配が失われた。
家の中の物陰や敷物の下はもちろん、街にあいた穴の隅々までめぐって手がかりを探したけれど、何も無かった。

 

どうしようもなくなって、明かりをつけない家の中に座り込んでいたら帯広から来たという探偵犬を連れた亭主が帰ってきて、

 

「こいつなら見つけられるやろ」

 

という。

さっそくその帯広犬を抱いて街に出た。

 

「ねえ、どっちのほうに居ると思う?」

 

犬はしばらく左右の風を嗅いでいたけれど、やがてふん、と鼻を鳴らして言った。

 

「よくわかんないけど、どっちかっつーと北北西」

 

街の北北西を十センチきざみに探していると、灰色の酒屋に行き当たった。

黒いエプロンをした店主の顔が、あの一瞬だけ姿を見せた誘拐者とどこか通じるように思えた。

 

「だけど証拠がないんだな」


 
酒屋で買ったスルメを噛みながら帯広犬がそう言った。その通りだった。

店の入り口のわきで缶ビールをあけながら私はずっと監視を続けた。

夕暮れが来て夜になり、秋風が吹いて冬になった。

吹きっさらしの路上で、あっためたウィスキーに砂糖を入れた時だった。

 

「すんすん、すすすすんすんすんすん、おわ~い。おわおわ~い」

 

目が覚めた。

朝の五時だった。オムツを換えると「おっぱいなのじゃ」と騒ぐのでちょっと飲ませたら、にやっと笑ってすぐに寝た。私も後を追って寝た。

 

夢の続きが始まった。

証拠の声を聞かれてしまった酒屋のオヤジはコドモを処分することにしたらしい。

対決は場末の廃ビルの脇にある薄暗い湿地で繰り広げられた。

 

ワゴン車でコドモと共に移動する誘拐者を私は空から追って行った。

友人から貰ったハンドヘリコプターは消音タイプでスピードもかなり出た。

でも腕がちょっと疲れた。

 

湿地の真ん中で酒屋のオヤジが車から出た瞬間に、私は急降下して持っていたビール瓶を後頭部に思いっきり振り下ろした。だけどはずれた。

 

しかたがないので顔面にケリを入れてコドモを取り戻し、あとは気が済むまでモグラ叩きを楽しんだ。オヤジはあまり痛くなさそうだったけれど、とりあえず倒れないと話が終わらないのでバタリと湿地にめり込んで死んだ。

 

オヤジオヤジと書いていたけど顔を見たら若かったので、なんだか悪いような気がしたけれどしかたがない。悪役は貴重だからそのうちまた会えるだろう。

 

夢日記などオンラインで書くようなものじゃないとつくづく思うけれどエディタを立ち上げて書こうなんてしてたら忘れちゃうに決まっているからこのまま書き逃げして私は再び寝ようと思う。

 

そもそもこんな夢を見たのはゆうべ新生児を煮殺して妻に食わせる男の話について書きかけてボツにしたせいなので、そのうちちゃんと書こうと思う。いろいろひどいなほんとに。

 

 

(1996年11月10日)
※過去日記を転載しています。

 

(新生児を煮殺す話は私が考えたのじゃなくて、今昔物語あたりに元ネタがあったはず)