湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

「臣女」と「増殖」

✳︎お食事前後の方は閲覧にご注意ください。

 

 

吉村萬壱の「臣女(おみおんな)」という小説を読んだ。

 

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臣女 (徳間文庫)

臣女 (徳間文庫)

 

 

 

異様な体型の女性の絵が表紙にある。

 

レオタードのようなものを身につけて仰け反っている表紙の女性が、主人公の妻だとするなら、この体型はデフォルメではない。細胞が猛スピードで増殖、成長し、全身がいびつに巨大化するという、謎の身体症状に見舞われているのだ。

 

幻想小説というジャンルになるのかもしれないけど、描かれている事態の醜怪さは、甚だしくリアルだった。

 

凄まじい物量の糞便、尿、嘔吐物、蛆虫、それらの発する、この世のものとも思われない凶悪臭の描写が、微に入り細に渡り、執念じみた現実味を帯びて、これでもかというほど続くからだ。

 

奇病としかいいようのない症状は、彼女の夫が浮気の告白をした直後に出現した。

 

人体から出るとは思えないような異音を発しながら、凄まじい成長痛とともに、妻の身体は常軌を逸した形状に育っていく。最終的には身長5メートルほどにもなっていた。体重は不明。

 

その身体で猛烈に食べ、排泄するのだから、一般家庭のトイレなど使えない。彼女の夫(主人公)は、風呂桶にゴミ用のポリペールを入れ、そこで妻に排泄させて、何キロにもなるブツを小分けにしてトイレに捨てたり、下水として流したりして処理し、重さを「うんち帳」に記録するという作業を日課としている。

 

巨大化するにつれて、妻は正気と生活能力を失っていき、食事や排泄も自力ではできなくなっていく。最初のころは、たまに正気に戻って夫の浮気を執拗に糾弾していたが、夫が浮気相手と切れてからは、そういう修羅場はなくなっていく。

 

けれども、巨大化によって増大する食費と排泄物に圧迫され、彼らの生活はどんどん追い込まれていく。自宅トイレが水洗ではなく、汲み取り式だったことと、下水が外界に露出する側溝に流れ込んでいたことが、破綻の決め手となった。悪臭に耐えかねた近隣住民が、主人公たちの排除に動きだしたのだ。

 

 

そりゃ住民も動くだろう。私だって隣人だったら役所に訴えに日参するくらいやっただろう。小説を読んでるだけなのに、いつのまにか息を止めていたほどだ。それくらい、妻のうんちの描写はリアルに臭かった。

 

半分くらいまで読んだところで、どうにかしてこの文章中のド悪臭を中和できないものか、できなければとても読了できそうにないと思ったけれども、そもそも文章から出る臭気だから物理的に中和できようはずがない。

 

そこで読むのを諦めるという選択肢もあったけれども、この救いのない物語がどういう場所に決着するのか、どうしても見届けたかった。

 

で、音楽で消臭できないだろうかと思いついた。

 

物語に全然関係なさそうな曲がいい。

 

「アレクサ、イエローマジックオーケストラかけて」

 

 

増殖(特典なし)

増殖(特典なし)

 

 

 

 

効いた。

おかげで、読了できた。

 

 

浮気男だった主人公は、自分の3倍ほどの身長になった妻が、ほんの僅かな間、均整のとれた美しい身体となった時に、夫婦の絆を取り戻した。もともと巨大な女性に惹かれる性質だった主人公は、巨大な妻の肉体に、自らの帰るべき場所を見出すのである。

 

けれども妻は、再びいびつに巨大化する。

近隣住民や役人や実母の介入、職場での人間関係の悪化などによって、精神的に追い込まれた主人公は、妻を生かすべく、共に逃避行するけれども、結局は守り切れず、最も無惨なかたちで死なせてしまう。

 

そこではじめて、主人公は、妻と自分との間にあった、この上なく清らかだったはずの、愛情の本質を見ることになる。

 

 

糞尿汚穢、人間関係の醜悪さの描写がひたすら続いた果ての、その着地点のうつくしさには、驚かされた。最後まで(めげずに)読めて、よかった。

 

 

YMOは臭い消しに最適という思いがけない収穫もあったので、二度美味しい感じである。