ネットを探索していて、こんな情報を拾った。
「日本最古のゲイのエピソードは、『日本書紀』の中にある」
それはぜひとも原文を見物しなければ。
「神功皇后紀摂政元年」の記事であるとのこと。
亭主の書庫にあった岩波古典体系(旧体系)「日本書紀 上」の、神功皇后のところを、ざーっとナナメに読んでみた。
神功皇后という女性は、「気長足姫尊(おきながたらしひめのみこと)」という名前で、幼少期から非常に聡明で、しかも、実の父親が「ちょっとこれは普通じゃねえぞ」と思うほどの美形だったという。
夫の仲哀天皇が亡くなったあと政治の実権を握り、妊婦の身でありながら自ら男装して戦に出陣し、積極的に近隣諸国を攻略している。
兵士達に強姦行為や敵前逃亡を禁止し、自分から降伏したものを殺さないように徹底させるなどして、高い士気を維持し、戦に勝っていく様子が描かれている・・・・
という内容のようだったけど、なにしろ口語訳や解説本があるわけじゃないので、いろいろ誤読しているかもしれない。でもまあ、大変な女丈夫であったことは確かだろう。
さて、神功皇后は、戦へと赴く旅の途中で、昼なのに真っ暗な地域にたどりついた。
そこには、地元の人だけが知っている、いわくつきの墓があった。
原文を抜書きしてみる。
旧字をみつけるのが大変だったので、一部の漢字がテキストと違っています。すいません。
是の時に適りて、昼の暗きこと夜の如くして、既に多くの日を経ぬ。時人の曰はく、「常夜行く」といふなり。
皇后、紀直の祖豊耳に問ひて曰はく、
「是の怪は何の由ぞ」
とのたまふ。時に一の老父有りて曰作、
「伝に聞く、是の如き怪をば、阿豆那比の罪と謂ふ」
とまうす。
「何の謂ぞ」
と問ひたまふ。対へて曰さく、
「ニつの社の祝者を、共に合わせ葬るか」
とまうす。因りて、巷里に推問はしむるに、一の人有りて曰さく、
「小竹の祝と天野の祝と、共に善しき友たりき。小竹の祝、逢病して、死りぬ。天野の祝、血泣ちて曰はく、『吾は生けりしときに交友たりき。何ぞ死にて穴を同じくすること無けむや』といひて、則ち屍の側に伏して自ら死ぬ。よりて合わせ葬む。蓋し是か」
とまうす。乃ち墓を開きて視れば実なり。故、さらに棺槻ほ改めて、各異処にして埋む。則ち日の暉てりて、日と夜と別有り。
読みはともかく、字面だけ見ていても、だいたいの内容は分かる文章である。
「阿豆那比」という語は、岩波古語辞典にも立項されているけれど、どうやらはっきりした意味は分かっていないらしく、
「未詳。親しい男性二人を一所に葬ること、また、男性の同性愛をいうか」
と、疑問の形で終わる語釈になっている。
また「血泣(いさ)ちて」は、人の言うことを聞かず、勝手にわめくこと。イヤイヤと騒ぎ立てること。
というわけで、恒例の誤訳の試みをば。
《意訳という名の誤訳》
この地方に入ってから、なんだか分からないけど、昼なのに夜みたいに暗い日が、ずっと続いている。
こういうのを、「常夜行く」って、いまどきの人はいうんだけど、ここだけ真っ暗っていうのがおかしい。アマテラスの神がまた岩穴で引きこもりしてるんだったら、どこもかしこも真っ暗になるはずじゃない。
それで、あたしは調査してみることにしたの。
「ねえ、物知りの豊耳くん。ここって、なんで暗いのかな」
豊耳くんも、知らないらしくて、土地の事情通を探しに行った。しばらくすると、じいさんを一人連れて戻ってきた。
「この怪奇現象はどーゆーことなのかしら。じいさん、苦しゅうないから知ってることを話してみなさい」
「いや、ワシも人から聞いた話なんですがね、これはアヅナヒの罪というものではないかっちゅー話でねえ」
「アヅナヒ? なにそれ。聞いたことないなあ。どういう意味?」
「それはですなあ、まあ、その、ナニがそれして、なんですやら・・・」
「ごにょごにょごまかしてないで、はっきり申せってば」
「まあその、簡単に言うと、別々の神社に仕えてた若いもんを、一緒の墓に葬った、ということで」
「ふーん。で、それと、年中真っ暗なのと、どう関係してるのよ」
「いやー関係はあるような、ないほうがいいような、あっちゃこまるけどあったんだからしかたがないっちゅーか、掘ったボケツは埋まらんちゅーか」
「えーい、あんたの言うことは、さっぱり分かんないわ。じーさん、もういいから下がんなさい! 豊耳くん! もっとマシなやついないの? 探してきて!」
豊耳くんは、もうすっかり探偵ナイトスクープ状態。でもそれが彼の特技なんだな。
そこいらへんの暗い町を歩き回って、誰彼に事情を聞いて回ってたかと思うと、またすぐ事情通をみつけて連れてきた。さっきのエロ風味のじじいとちがって、こんどはまともに情報伝達ができそうな男。
「さあ話してちょーだい」
「では行きますぞ。このあたりに、二つの神社がありましてな。若い男が二人、それぞれの神主の下働きみたいなことをして仕えておったんですが、これが、実に仲のいい友人同士で、傍目にも、ちと度を越した間柄のように見えないこともなかったんですわ」
「度を越したというと?」
「まあはっきり言えば、ただならぬ仲ですな」
「ただならぬ仲?」
「さようで。で、その片方の男、まあ仮に小竹くんとしておきますが、それが病にかかって、あっけなく死んでしまいましてな。相棒の天野くんは、半狂乱になりまして、小竹くんの死体にすがって『イヤだよっ、死んじゃイヤだっ、イヤだあああ』などと叫びつづけておったのですが、やがて、『生きている間、ボクは君だけのものだった。死んで違う穴に埋められるなんて、絶対イヤだ!』などと叫んだかと思うと、小竹くんの横に寝て、ずっぱりと、自殺しまして」
「ずっぱりとって、どうやって死んだわけ?」
「さあ」
「知らないの?」
「いかにも」
「あんた、見てたんでしょ、現場」
「まあ、見るに見かねてと申しますか」
「正視できなかったのね。で、止めもしなかったわけだ」
「・・・で、まあこのことが、常夜の原因ではなかろうかと、愚考するしだいでございまして」
「ごまかしたわね」
「恐れ入りましてございます」
「まあいいわ。その墓に案内なさい」
兵に命じて墓を暴かせてみると、たしかに二人の遺骸は抱き合うように眠っていた。あたしはその遺骸を引き離して別々の棺に入れさせ、別の場所に埋葬させた。
するといきなり明るくなった。
たしかに、常夜の原因は、この二人の埋葬方法にあったわけだ。
でも、一体どうして?
その前に、ただならぬ仲って、ナニ?
ねえ豊耳くん、教えてよ。やだ、なに赤くなってるのよ。ねえってば。
(2005年05月19日)
※過去日記を転載しています。
※他ブログに同内容の記事を掲載していましたが、今後、こちらにまとめていく予定です。