湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

午後四時の万葉集 萩の花にライダーキック


前回、酔っ払って登場した大伴旅人氏は、実はあの歌を詠んで一年もしないうちに、亡くなっている。筑紫でだいぶ体を壊していたらしい。赴任早々、愛妻を亡くしたことも痛手だったのかもしれない。

 

今日の歌は、その死を悼んだ舎人が詠んだものである。

 


天平三年辛未秋七月、大納言大伴卿薨之時 歌六


愛八師匠 栄之君乃 伊座勢婆 昨日毛今日毛 吾乎召麻之乎 (454)

はしきやし 栄えし君の いましせば 昨日も今日も 我を召さましを

はしきやし さかえしきみの いましせば きのうもけふも わをめしましを

 

【普通の意訳】

あああああああっ あれほどご立派だった我が君が、もしいらっしゃったなら、昨日も今日も、このワタクシを、おそばにお召しになったことでしょうに。

 


如是耳 有家類物乎 芽子花 咲而有哉跡 問之君波母 (455)

かくのみに ありけるものを 萩の花 咲きてありやと 問ひし君はも

かくのみに ありけるものを はぎのはな さきてありやと とひにしきみはも

 

【普通の意訳】

こんなふうに死に別れるだけだったというのに、あのお方は……ああ、あのお方は、このワタクシに、萩の花は咲いてそこにあるのかと、お聞きなって……。

 

 


君尓恋 痛毛為便奈美 蘆鶴之 哭耳所泣 朝夕四天 (456)

君に恋ひ いたもすべなみ 蘆鶴の 音ねみし泣かゆ 朝夕にして

きみにこひ いたもすべなみ あしたづの ねのみしなかゆ あさよひにして

 

【普通の意訳】

あなた様をひたすらに恋こがれ、どうすることもできなくて、このワタクシは、蘆鶴のように、声をあげて泣いているばかりだ。朝から晩まで。

 


遠長 将仕物常 念有之 君不座者 心神毛奈思 (457)

遠長く 仕へむものと 思へりし 君しまさねば 心どもなし

とほながく つかへむものと おもへりし きみしまさねば こころどもなし

 

【普通の意訳】

いつまでもいつまでも、あなた様にお仕えしようと思っていましたのに、あなた様がいらっしゃらなくなってしまったのだから、もはやワタクシの気力はなくなってしまいましたよ。

 


若子乃 匍匐多毛登保里 朝夕 哭耳曾吾泣 君無二四天  (458)

みどり子の 這ひたもとほり 朝夕に 音のみそ我が泣く 君なしにして

みどりこの はひたもとほり あさよひに ねのみそあがなく きみなしにして

 

【普通の意訳】

 

赤ん坊のように這いまわりながら、ワタクシは、朝から晩まで号泣しています。なぜなら、あなた様が、もういないから……。

 

右五首 資人余明軍不勝犬馬之慕、心中感緒作歌。

右の五首は、資人(しじん)余明軍(よみょうぐん)、犬馬の慕ひ、心中の感緒に勝へずして作りし歌。

 

 


また「はしきやし」である。以前に書いた大伴家持の歌で見かけて以来、この表現が気になってしかたがない。

 

dakkimaru.hatenablog.com


小学館の日本古典文学全集の「萬葉集」では、上の454の歌の「はしきやし」に、次のような頭注をつけている。

 

はしきやし----ハシキヤシ・ハシキヨシ・ハシケヤシは、場合によって、いずれもどうしてよいかわからないほどの激しい哀惜・追慕の気持ちを表わす感動詞として用いることがある。下の体言につづかず、全体の内容について、いたましいことだ、かわいそうに、残念だ、などというさまざまな場合が含まれる。ここも慕わしいの意で「栄えし君」を修飾すると見るよりも、ああ悲しいことだ、という意味の感動詞と解するほうがふさわしい。


これは、とてもよくわかる解釈である。

 

なのにこの日本古典文学全集、肝心の口語訳で、「はしきやし」を、

 

「なんとまあ」

 

と訳している。なとんまあ。「激しい哀惜」にしては、力抜けすぎ。もうちょっと、なんとかならないか。


作者の余明軍という人は、百済の元王族だったらしい。この歌を詠んだときの年齢はちょっと分からないが、「犬馬の慕ひに勝へずして(犬や馬が飼い主を慕うような思慕の気持ちに耐えられず)」などとあるのを見ると、まだ幼さが残る人物のように思える。

 

どの歌も、亡き主に対する一途な思慕の思いがあふれていて、痛ましい。

 

歌の内容から考えても、この人と旅人氏が、ただの主と使用人の関係だったとは思えない。もっと親密な、互いになくてはならないような心の通い合いがあったのではなかろうか。

 

 

  《五首まとめて妄想》

 
 うわあああああああああああああ
 うそだああああああああああああ 
 たびとさまああああああああああ
 いやだああああああああああああ
 あああああああああああああああ
 あああああああああああああああ

 


 (少なくとも一昼夜、このまま号泣)
 (錯乱状態のあと、疲労と脱水症状にて昏倒)
 (介護を受けて、なんとか復活)


 
 旅人さまの
 うそつき・・・。
 いつまでも そばにおいてくれるって
 いってたのに。
 一人で逝っちゃうなんて。

 

 ねえ。
 どうして僕を呼んでくれないの?
 いつだって、あなたは
 僕がいなきゃダメなひとなのに。
 ひとりじゃなんにもできなくて。

 

 こないだだって、旅人さま
 「はぎ、さいたかなあ」って
 僕にいうから
 なんどもなんども、庭に出て、見にいったのに。
 花なんか見ないうちに旅人さま、
 逝っちゃったじゃないか。
 
 なんだよこんなクソ花っ。
 いまごろ咲きやがって!

 

   (萩にライダーキック)
   (同僚に取り押さえられ、錯乱)

 

 離せえぇぇぇぇっ
 だああああああっ
 たびとのど阿呆ーーーーっ
 一人でさっさと死んでんじゃねーよクッソじじい

 畜生! 畜生畜生畜生畜生畜生っ
 ヨッパジジイのくせに
 ひとのこと最後までガキ扱いしやがって
 そうだよ、どうせガキだよ俺。
 あんた死んだらどうしていいのか
 もう分かんないんだよっ。
 喉が、声が、勝手に泣き続けて、
 止まらないんだ。
 どうしてくれんだよ。

 オラァッ、そこの鶴!
 てめえジジイのお気に入りだったな!
 ひとと一緒に泣いてんじゃねーよ。
 馬鹿にしてんのかごるああぁぁぁっ


   (鶴の首を絞めにかかり、再び取り押さえられる)


 うっうっ・・・うぐっ・・・・
 なんで、
 しんじゃったんだよ
 たびと・・・さま・・・

 


それにしても、大伴旅人氏は、ずいぶん人望のある人だったようだ。幅広く、年齢問わず、いろんなタイプの人(男)から愛されていたようで、とても興味深い。

 

 

(2005年05月29日) 

 

腐女子の万葉集シリーズ

 

※他ブログに同内容の記事を掲載していましたが、今後、こちらにまとめていく予定です。

 

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