私は当時のことを思い出す度に、人通りの多い十字街(よつつじ)に土下座して、通る人毎に、踏んで、蹴て、唾を吐懸けて貰い度(たい)ような心持になる……
「平凡」
女遊びをする金のない「私」は、文学にかぶれて想像の中で変態じみた色情に耽ることを高尚だとイキっていた若い頃の自分を思い出して、煩悶している。
小説「平凡」は、明治40年に朝日新聞に連載され、大好評だったという。
明治だろうと令和だろうと、黒歴史を抱えるイタさに変わりはなく、同病愛憐れむ心情もまた不変だということだろう。