菊池寛。
上州岩鼻の代官を斬り殺した国定忠治一家の者は、赤城山へ立て籠って、八州の捕方を避けていたが、其処も防ぎきれなくなると、忠次を初、十四五人の乾児(こぶん)は、辛(ようや)く一方の血路を、斫(き)り開いて、信州路へ落ちて行った。
「入れ札」
凶悪な博徒として名高い国定忠治が「赤城の山も今宵限り」と言って、子分たちと別れて逃げ落ちる場面だけれども、「入れ札」の主人公は忠次ではなく、冴えない子分の九郎助(くろすけ)。
忠次に最期まで付いていく者を選ぶために、子分たちで入れ札をすることになったのだけど、九郎助は、入れ札に自分の名前を書くというズルをする。
結果、九郎助は一票を獲得したものの、有力な子分たちの得票には勝てず、不正を働いた後悔だけを抱えて、忠次の元を去ることになる。
史実では、国定忠治は地元に帰還したあと中風を患い、捕まって刑死するという。享年41。九郎助がどうなったのかは、わからない。
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「入れ札」は1921年に発表された作品だという。
今読んでも印象的な内容だけど、ルビがないと読めない漢字表記が多い。
まず「乾児」。乾いた児で、なぜ「こぶん」と読めるのか。
「斫り開く」の「斫」は、ここでは「き」とルビがつけられているけれども、「斫り」で「はつり」とも読み、金属やコンクリートを削り取ることを言う場合もあるのだとか。まったく知らなかった。