照りつけ日差しにも乾かない袖を抱えた人たちの、とてもよく似た歌、二首。
日に寄する
六月の地さへ割けて照る日にもわが袖乾めや君に逢はずして
(みなづきの つちさえさけて てるひにも わがそでひめや きみにあわずして)
万葉集 巻十 1995
菅の根のねもころごろに照る日にも乾めやわが袖妹にあはずして
(すがのねの ねもころごろに てるひにも ひめやわがそで いもにあわずして)
万葉集 巻十二 2857
【語釈】
- 六月(みなづき)…旧暦。新暦だとだいたい六月下旬から八月上旬に当たる。
- 乾(ひ)る…乾く。上一段活用動詞。
- 菅(すが)…すげ。草の名前。
- 菅の根…「ねもころ」の枕詞。
- ねもころ…熱心に。心をこめて。「ころ」の部分を反復することで意味を強めている。
【意訳】
六月の太陽が、大地をひび割れさせるほど照りつけても、涙に濡れた私の袖が乾くことはありません。愛するあなたに会うことがなければ。(1995)
猛烈に照りつける日差しにあたっても、我が袖が乾くことなどあろうか。愛しい人に逢えなければ。(2857)
・・・・・・・・
万葉集で「照る日」を詠んだ歌は、上の二首だけのようだ。
2857は男性の歌だけれど、1995の詠み手は男女どちらとも取れる。
収録されている巻も違うし、相聞の歌というわけではないのだろうけれど、敢えて相聞として考えると、「地さへ裂けて」という激しい言葉を盛り込んでいる1995のほうが切羽詰まって余裕のない印象で、枕詞の技巧をもてあそんでいる風の2857は、情念が少し陰にこもっているように感じられる。
(_ _).。o○
次に英訳。
No. 1995
Even upon a day of June when earth cracks from the fiery sun
my sleeves are never dry, since I without you weep alone.
No.2857
Yearning for you,me sleeves are ever wet with brine,
and 'tis only you that have the power to dry them.
本多平八郎「完訳 万葉集 THE MANYOSHU A NEW COMPLETE TRANSLATION」北星堂出版 1967
【単語メモ】
- fiery…灼熱の。
- 'tis…it isを省略した形。
- brine…塩水。
【逆翻訳】
No. 1995
たとえ六月の灼熱の太陽で、大地がひび割れた日でも
私の袖は決して乾かない。
あなたなしで、私は一人泣いているのだから。
No.2857
あなたに恋焦がれて、私の袖は涙が乾くことがない。
あなただけが、それらを乾かす力を持っているのだから。
・・・・・・・・・・
前回の嫉妬の和歌とはちがって、今回の歌は比較的素直に英訳されているようだ。
(_ _).。o○
AIのCopilotさんに、灼熱の太陽でひび割れた大地の上で泣いている人の絵をリクエストしてみた。


上が女性で、下が男性。
万葉集とは時代も文化もまるで違うけれど、スチームパンクな世界観って、ひび割れた大地によく似合うような気がする。

