三月(やよひ)ばかりに物のたうびける人のもとに、又人まかりて消息すと聞きて、よみてつかはしける
露ならぬ心を花におきそめて風吹くごとに物思ひぞつく
古今和歌集 巻第十二 恋二 589
【語釈】
のたうび…「言ふ」の尊敬語「宣(のたう)ぶ」の連用形。
消息(せうそこ)す…訪問する。取次を依頼する。
〜そむ(初む)…し始める。初めて…する。
つく…(気持ちなどが)生じる。起こる。
【普通の意訳】
花びらについた露は、風が吹けばはかなく散ってしまうもの。
けれども、露よりもはるかに重い私の恋心を、あなたという花の上に置きはじめた時から、風に揺らされるたびに、悩ましくてならないのです。あなたの心が他の誰かへと、揺れ動いてしまうのではないかと…
【久々の怪しい意訳】
密かに片思いしていた彼女から熱烈に告られたのは、 ちょうど桜が散り始めていた、三月頃(旧暦)のことだった。
両思いだって分かったのは、本当に嬉しかった。
だけど、女性のほうからぐいぐい来られた経験がなかったから、ちょっとたじろいでしまったと云うか、照れてしまったというか…
もともと、オープンに愛を語れるようなタイプじゃないこともあって、彼女に同じ熱量で気持ちや言葉を返すタイミングを逃してしまっていた。
そのせいで、僕がこの恋に消極的だと、彼女に誤解されてしまったらしい。
最近、他の奴が彼女の家におしかけて、やたらと情熱的に交際を申し込もうとしていると、噂で聞いた。彼女のほうも、まんざらでもなさそうだ、とも。
冗談じゃない。
僕だって彼女が大好きなんだ。
後から割り込んできた暑苦しい奴なんかに負けていられない。
瞬発的な熱量では他の男に敵わなくても、僕には持ち前の粘着性がある。
彼女が少しばかり風に吹かれて他の男によろめいたとしても、決して振り落とされることのないように、ねっとり憑いておくことにするよ。
……
冒頭ののイラストは、AIのCopilot さんに描いてもらった「桜の花びらに憑いてる露みたいな男性」。