出不精克服のために、今年は最低でも月一回は映画館に行こうと決めていたのだけど、今月は、なかなか見たい映画を決められずにいた。
一応、「室町無頼」を候補にしていたけれども、かなり死屍累々なお話らしいので気が進まず、どうしようかと思いながら、映画館の上映スケジュールを眺めていたら、「侍タイムスリッパー」というタイトルが目に入った。
時代劇のタイムスリップものというと、遠い昔に読んだ、半村良の「およね平吉時穴道行」を思い出すのだけど、あれは現代人が江戸時代に飛ぶ話だった。
たしかテレビドラマにもなっていて、面白く見ていたはずなのに、内容をほとんど思い出せない。そのうち本を発掘して再読しよう。😑
逆に江戸時代の侍が現代に飛んできた話としては、小松左京の短編小説「やせ我慢の系譜」がある。
これも何十年も前に読んだっきりなので、細部はうろ覚え。タイムスリップしてきた侍が、世話をしてくれた女性と深い仲になったものの、自分の生きた過去の時代に殉じるために切腹して果てる。残された女性は、その最期を見届けて諸々始末をつけたあと、侍との間にできた子を一人で気丈に育てていく…という、なんとも切ないやせ我慢のお話だった。
「侍タイムトラベラー」も、「やせ我慢の系譜」みたいなお話だったらキツイなと思ったけれど、レビューをチラ見した感じでは、ラストで大笑いしたという人が結構いたので、切腹はなさそうだと判断。
で、昨日、一人で見に行ってきた。
(_ _).。o○
感想を先に書くと、見に行って大正解の映画だった。
泣かされて笑って、心があったかくなる楽しいひとときだった。
会津藩士の高坂新左衛門は、敵対する長州藩士の風見恭一郎を待ち伏せして討ち取ろうとしたものの、斬り合いの最中に雷に打たれて気絶してしまう。
まるで見覚えのない町で目覚めた新左衛門は、若い娘が柄の悪い男どもに絡まれているのを見かけて、思わず助けようと身構えたものの、「心配無用ノ介」と名乗る正義の侍が颯爽と現れて、男どもを見事に蹴散らしてしまう。
娘の無事に新左衛門がホッとしていると、蹴散らされたはずの男どもが再び出てきて同じ娘に絡み始め、「心配無用ノ介」も同じセリフを口にしつつ登場する。新左衛門は今度こそ加勢しようと刀を抜いて飛び出して行き…
監督の激怒を食らって止められた。
そこは京都の時代劇撮影所で、新左衛門はドラマ撮影の現場にタイムスリップして紛れ込んでいたのだけれど、見た目が完全に侍だったために、撮影スタッフたちは挙動不審の新左衛門を現場を間違えた役者だと思い込み、隣の現場に案内する。
隣の「ゾンビ四谷怪談」の撮影現場に入り込んだ新左衛門は、不気味なゾンビに扮した役者たちを見て恐れ慄き、逃げようとして大道具に頭を強打し、ふたたび気絶。
次に目覚めた場所は病院のベッドの上で、窓から外の風景を見た新左衛門は、自分が全く見知らぬ世界にいることに気づき、愕然とする。
何も分からないまま街をさまよっていると、「黒船来航から百四十年」と書かれたポスターが目に入り、そこでようやく、自分がずっと先の時代に来てしまっていることを知る。
失意のまま歩き続けていた新左衛門は、ものすごく見覚えのある門の前にたどりつく。
そこは昨晩、新左衛門が、同胞の山形彦九郎と二人で、風見恭一郎を討つために待ち伏せしていた屋敷の門だった。
もう一度雷に打たれて、自分が生きるべき過去に戻ることを願う新左衛門だったけれども、願いは叶わず、その場で行き倒れただけだった。
その後、さまざまな稀有な出会いを得た新左衛門は、斬られ役の役者として、時代劇撮影所で働くことになる。
行き倒れているところを拾われた縁で居候することになった寺で、新左衛門は、自分が乱入した「心配無用ノ介」のテレビドラマを見て、世話になっている住職夫妻が引くほど激しく感動する。
歴史に名を残すことのない江戸時代の庶民たちの、悲しみや喜び、ささやかな幸せを描く時代劇は、タイムトラベルのせいで生きる場所や守るべきものをすべて失ってしまった新左衛門にとって、命を掛けられるほどに大切なものに思われたのだ。
新左衛門は、タイムトラベル直後から何かと世話になり、ほのかな思いを寄せつつあった、助監督の山本優子に、斬られ役の役者になりたいと相談する。
時代劇の全盛期は過ぎ去って久しく、放映数も激減しているため、斬られ役では食べていくのも厳しいと言われても、新左衛門の意志は揺らがず、山本優子の紹介で、斬られ役の道場である「剣心会」への入門を果たす。
その後、思わぬ人物との「再会」が、新左衛門にとって、失った過去と向き合い、現代に根を生やして生きる「侍」としての覚悟を確かなものとするきっかけをもたらすのだけれど、これ以上ネタバレしても良くないと思うので、書かずにおく。
ラストシーンは結構笑ったのだけど、できればその続きも見せてほしかった。
(_ _).。o○
見終わってから知ったのだけど、この作品は、日本アカデミー賞を多部門で受賞したのだとか。
祝!!!!!!!
— 池袋シネマ・ロサ (@Cinema_ROSA) 2025年1月21日
『#侍タイムスリッパー』
第48回 #日本アカデミー賞
優秀賞7部門賞受賞
・作品賞
・主演男優賞 #山口馬木也
・監督賞 #安田淳一
・脚本賞 安田淳一
・撮影賞 安田淳一
・照明賞 #土居欣也 #はのひろし 安田淳一
・編集賞 安田淳一
#シネマロサ #インディーズフィルムショウ pic.twitter.com/hYDWyog5Uh
主演男優賞を受賞した、高坂新左衛門役の山口馬木也さんは、劇中で時間が流れて現代の暮らしにある程度馴染んでからも、幕末のお侍が洋服を着せられているようにしか見えなかった。
新左衛門が居候することになったお寺でのシーンを見ていたら、脳内で伊丹十三の「お葬式」がチラチラとフラッシュバックした。
ストーリーも俳優さんも全く違うのに、どうして「お葬式」を思い出すのか不思議に思っていたら、新左衛門が見ているテレビの脇に、「マルサの女」などの伊丹十三作品のビデオテープがずらりと並んでいた。
Wikipediaの「侍タイムスリッパー」の記事によると、そのビデオテープは監督さんの所持品で、作品の設定年代(2007年)的に、ビデオテープがあったほうがよいということで、置かれたのだとか。
脳内で「お葬式」がフラッシュバックしたのは、ただの偶然かもしれないけれど、私が気づいていないだけで、もしかしたら何か映像的な共通点があったのかもしれない。40年ぶりに「お葬式」も再視聴してみたくなった。