今回は、万葉集の長田王(ながたのおおきみ)の歌。
うらさぶる心さまねし久かたの天のしぐれの流らふ見れば
(うらさぶる こころさまねし ひさかたの あめのしぐれの ながらうみれば)
(万葉集 巻1-82)
*うらさぶる……うら寂しい気持ちになる。動詞「うらさぶ」の連体形。
*さまねし……度重なる。数がとても多い。
*久かたの……「天(あめ)」にかかる枕詞。
*ながらふ……流れ続ける。静かに降り続ける。
長田王は、奈良時代の皇族で、この歌は、712年の夏に、伊勢斎宮に派遣された時に、山辺御井(やまのへみい)というところで作った歌だという。
でも、「しぐれ(時雨)」は晩秋から初冬に降る雨のことをいうので、夏に詠んだ歌というのは、不自然。万葉集編者も、疑問を持ったようで、山辺御井で詠んだとは思えないと、注をつけている。
晩秋まで伊勢に滞在したのか。
それとも、夏なのに、気分は時雨だったのか。
【ねこたま意訳】
寂しい…
遠い空から落ちてくる冷たい雨が、私の心を閉じ込める。
一人きりで、雨の檻の中にいるようだ。
天空は限りなく広いのに、逃げ場のない孤独に、押しつぶされてしまいそうで。
ただ、寂しい…