恋するは苦しきものと知らすべく人をわが身にしばしなさばや
(こいするは くるしきものと しらすべく ひとをわがみに しばしなさばや
よみびとしらず
拾遺和歌集 753
【ねこたま意訳】
「愛してる」っていう、あなたの言葉は、お菓子みたいに甘いけど、いつだってほんの少しもらうだけ。
甘くて楽しいだけの恋の遊びが、あなたの望みなのでしょうね。
けれども、あなたに恋したその日から、私は満たされることのない思いに苦しむばかり。
恋の駆け引きなんて分からずに、一途に思うだけのわたしでは、きっと飽き足らないのでしょう。
そんなあなたを恨んだって、虚しいだけなのは分かってる。
でも思うのよ。
どうしてわたしだけが、こんなに苦しまなくちゃいけないの?
いまだけ、ほんの少しの時間だけでいいから、あなたと入れ替わってしまいたい。死ぬほどの心の飢えを、あなたにも味わって欲しいから。
ねえ、お願い。
わたしのかわりに、地獄に堕ちて。
題しらず
夕暮は雲のはたてに物ぞ思ふ天つ空なる人を恋ふとて
(ゆうぐれは くものはたてに ものぞおもう あまつそらなる ひとをこうとて)
古今和歌集 484
【ねこたま意訳】
一般ピープルの僕にとって、高貴な彼女はあまりにも遠い存在。
姿を見ることすら難しい、雲の上のひと。
それなのに、恋してしまった。
思いが叶うことなんて、あるはずがないのに。
昼の間は仕事があるし、人目もあるから、忘れたふりをしていられるけど、夕暮れの空を見上げていると、どうしようもなく思いが溢れて苦しくなる。
夕日に染まる空の果てに向かって細く伸びた雲の形が、まるで何かをつかもうとして伸ばす手のような見える。まるで、彼女の心をつかみとりたい僕の心みたいだ。
届くことなんて、決してないのに。
【参考図書】
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「新訳 拾遺和歌集」(やまとうたeブックス)
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