「あらう」
息子(25歳・重度自閉症)が、一日に何度も叫ぶ動詞。
食事が済んで、汚れた食器がシンクに積み上がっている状態が解消されるまで、息子は(主に私に向かって)
「あらう!」
と無限に言い続ける。
終止形だけど、命令の意図を持って発語されていると考えられる。
息子の言語能力がもう少し発達すれば、
「お母さん、さっさと洗ってよ!」
という形になるのだろうけど、この数年、頑として「あらう」の一語文を貫いている。
洗い物さえ済んでしまえば、息子は「あらう」を連呼しなくなるので、食べ終わったら可及的速やかに台所に立てばいいのだけど、私にだって胃が重い日もあれば、足腰が辛い夜もある。
けれども、
「ちょっと休んだら洗うから」
と息子に言って猶予をもらおうと思っても、なかなか理解してくれない。
どうしたら、「ちょっと休んだら洗う」ということを息子に納得してもらえるのか、散々考えた。
息子は未来の見通しを持つということが難しいらしい。
洗い物が片付くまで「あらう」を叫ぶのと同じように、「あしたは、○○?」と、翌日の予定を無限に確認し続けることもある。
なので、「ちょっと休んだら洗う」と息子に宣言し、ちょっと休んだら洗うということを日々繰り返して見せたところ、半年ほどで、「ちょっと休んだら洗う」という状況を理解して、食後に休憩している間の「あらう」連呼の頻度が減った。
(_ _).。o○
息子の使用語彙のほとんどは動詞なのだけど、上の「あらう」のように、終止形で言い切るばかりで、活用させるかとがない。
つまり、
「あらった」
「あらっている」
「あらわない」
「あらおう」
のような形での発語がない。
動詞を活用させて助動詞をくっつけることで、過去や完了、動作の継続や不履行、意志の表明を伝えることができるというのを、どうやったら息子に教えることが出来るのか。
「ちょっと休んだら洗う」と同じように、全ての表現形式を実地で体得してもらう以外の方法を、いまのところ思いつかないのだけど、膨大な時間と手間がかかるのは間違いない。
ショートカットの方法は、ないものだろうか。