「小説家になろう」で読んだ、印象深い作品のメモ。
「めくるめく世界の果て」(作者:ゆうひかんな)
https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n5382ft/
全53話。完結済。
今日の午前中に、なんとなく読み始めたら、先が気になってたまらなくなり、午後から予約していた病院受診のギリギリまで読み続け、病院の待合室でも読み続け、診察と会計が済んだところでちょうどクライマックスに差し掛かってしまい、ラストがどうなるのか気にしながら運転したら事故りかねないと思ったので、読み終わってから帰路に着いた。
ジャンル的にはダークファンタジーということになるのだろうか。
イライザという女性が、愛する人を奪われて無惨に死ぬという人生を何度も何度も繰り返しながら、自分を縛りつける呪いの存在を知り、恐るべき罠を張り巡らす敵に打ち勝って全てを取り戻す物語。
始まりは、気まぐれな魔女によって、
『イライザはクラウス=アンダーソンと結ばれるように生まれ変わるでしょう』
という呪(まじな)いをかけられたことだった。
けれども善意の呪いは、なぜか呪(のろ)いに変質し、数百年にわたってイライザを苦しめることになる。
イライザは生まれ変わるたびに、最初の人生で愛したクラウスと同じ魂を持つ男性に必ず出会い、お互いに惹かれ合う。
けれども、どの人生でも何者かの悪意によって引き裂かれ、結ばれることなく終わってしまう。
しかも恋の破綻から時をおかずにイライザは非業の死を遂げるのだ。
商人の娘。
王女。
伯爵令嬢。
洋裁で身を立てる一般女性。
役人の娘。
四度目の人生で、自分の死の条件がクラウスを失うことだと気づいたイライザは、出会いそのものを回避しようとするものの、出会いを避けることはできなかった。既に他の女性と結婚していたクラウスと出会って数日後に、イライザは病死した。
五度目の人生では、幼少期にすべての過去生の記憶を取り戻す。
膨大な情報量に脳が耐えられず、生死の境を彷徨ったものの、なんとか生きながらえたイライザは、その後、最初の人生で自分に呪いをかけた魔女を見つけて、惨憺たる転生の落とし前をつけるべく詰め寄った。
自分の呪(まじな)いが成就せず、イライザの人生を歪める悪質な呪(のろ)いに変わっていることを知った魔女は驚愕し、呪いを解いたけれども、その後のイライザの人生には、呪いよりもはるかに凶悪な罠を張り巡らす敵が待ち受けていた…
異世界ラノベでは、家族や恋人に人としての尊厳を踏み躙られ続ける「ドアマットヒロイン」が登場するけれども、この小説のヒロインを一番いたぶっているのは、たぶん作者さんだと思う。
しかも、いたぶられているのはヒロインだけじゃなく、敵味方の区別なく関係者全員、散々な目に合っている(ということが、物語の終りに明らかになる)。
そしてこの物語にはヒロインを救うヒーローが存在しない。
イライザの思い人であるクラウスは、一貫してイライザを愛するものの、少なくとも四度目の人生までは彼女を死の呪いから救うどころか、死のトリガーでしかなかった。
五度目になる最後の転生では、クラウスもイライザを守ろうと奮闘するのだけど、ほとんど助けにならず、イライザ共々悪意の罠に翻弄され続けることになる。
結局、イライザの不幸の連鎖を断ち切ったのは、イライザ自身の勇気と決意だったと思う。
全く救いの見えない転生の中で、イライザは孤独や絶望に飲み込まれることなく、心を歪めることもなく、ひたすら自分に鍛錬と研鑽を課して、その知識と技量を次の人生に持ち越し続けた。
三度目の人生で、婚約者だったクラウスが別の女性に目移りした(と思い込まされた)ために、さすがに彼へのひたむきな愛情は消えたものの、どんな逆境にあっても、完全に心が折れることなく生き抜いていた。
見方を変えれば、とてもいじめ甲斐のある女性ということにもなる。なにしろ折れないのだから、いくらでもいじめ続けられる。うん、酷い。
五度目の人生で呪いを解いてもらったイライザは、今度こそクラウスとの悲恋に振り回されることのなく長生きできる人生を手に入れられると信じて、最初の過去生と縁の深かった商売の世界を志す。
呪いを解いてくれた魔女は、イライザにも魔女の資質があることを告げ、自分が所属する秘密の組織にイライザを紹介し、仲間とともに彼女のサポートをすることを約束する。
けれども、就職した商会で待っていたのは、今世では上司となったクラウスと、過去生で彼をイライザから奪い続けてきた女性による悪質な陰謀だった。
濡れ衣を着せられては、根拠のない誹謗中傷を浴びせられる、ほぼ孤立無縁の職場。
上司のクラウスだけはイライザを守ろうとして無実の証拠を示すものの、なぜか誰も耳を貸さない。
しかも、陰謀の主である女性がクラウスの婚約者ということになっていて、いくらクラウスが事実無根だと否定しても、逆にクラウスが不実な態度を取っていると責められてしまう始末。
論理の歪んだ職場空間の中で(このあたりの不快感が極めてリアルなため読んでいてものすごくストレスフルなのに、読むのをやめられないという…)、一方的に痛めつけられて追い込まれるばかりのイライザは、それでも正体の分からない敵に立ち向かうことを諦めず、魔女たちの支援を受けながら危機を回避しつづけるうちに、やがて勝利の糸口を見出していく。
物語は一応ハッピーエンドではあるものの、終盤になって明かされる過去の真実がエグいというか、伏線回収という名の全方位天誅みたいになっていて、なかなか寒かった。
クラウスは例外なく不幸になっているし、元凶の女性も、彼女に加担した人々も、だいたい破滅している。そればかりかイライザを愛していた人々までも不幸に襲われたりもしている。作者さん、本当に容赦ないなと思う。
ヒロインに厳しいファンタジーというと、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの作品群を思い出す。
「九年目の魔法」は、「めくるめく世界の果て」と同じように、ヒロインの喰らう試練や孤立無縁っぷりが半端なくキツくて、最愛の男性は悪女に囚われっぱなしで、ほとんど助けにはならなかった。
「魔法使いと火の悪魔(ハウルの動く城)」も、有能だけどヘタレなハウルを、ソフィーが奮闘して救う話だった。ヒロインなのに老婆にされるし、ハウルはほとんど助けにならない。映画版とは違って、荒地の魔女は善良(?)な痴呆老人なんかにはならず、ひたすら悪人だったし。
色々思いだしたら、久しぶりに読み返したくなった。