NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第37回「オンベレブンビンバ」を視聴した。
怪しい呪文のようなサブタイトルは、北条の一家団欒を象徴することばだった。
頼朝と政子の長女大姫が唱えていた真言「オンタラクソワカ」を、時政が間違って覚えていたのが、「オンベレブンビンバ」。
生前の大姫が、時政とりく(牧の方)の嫡男が生まれた祝いの集まりで、不吉な言動をにこやかに炸裂させて、場の空気を崩壊させたシーンが懐かしく蘇ってくる(第21回 仏の眼差し)。
「鎌倉殿の13人」(21) 仏の眼差し - 湯飲みの横に防水機能のない日記
Amazon prime Videoで、そのシーンを見直してみたら、後の悲劇に続くフラグが立ちまくっていた。
祝いに集まっていたのは…
時政とりく、生まれたばかりの息子(政範)
政子と大姫
義時と八重と金剛(泰時)
阿野全成と実衣
北条時連(五郎・のちの時房)
畠山重忠と、妻のちえ(時政の娘)と、お腹の子(畠山重保)
稲毛重成と、妻のあき(時政の娘)
このとき、産後まもないりく(牧の方)は、義時を差し置いて自分の息子が北条氏の嫡男であることを示すためのマウンテング行動に余念がなかった。
義時の妻の八重が孤児を養育していることを貶しつけ、時政の婿の畠山重忠たちが比企の一族に押され気味で存在感に欠けていることを責め立て見せる。その場に大変に気不味い空気が流れても、常に愛妻ファーストな時政は嗜めることもしない。
この集まりのあと、義時最愛の妻だった八重は、川で溺れて亡くなってしまう。
大姫は病で亡くなり、阿野全成は時政とりくに唆されて頼家を呪ったことを比企能員に利用され、処刑される。
皆に誕生を祝福されていた、時政とりくの嫡男(北条政範)も、平賀朝雅の陰謀によって、都で毒殺される。
畠山重忠は、時政夫婦や平賀朝雅によって、政範殺害や謀叛の濡れ衣を着せられて、息子の重保ともども滅ぼされてしまった。
稲毛重成の愛妻あきは病死。
重成はその供養のためにと相模川に橋をかけたものの、その落成の催しに訪れた頼朝が落馬して意識を失い、まもなく死亡してしまう。その後、時政によって、畠山重忠の謀叛を唆した責任を押し付けられ、息子ともども処刑されることになる。
集まっていた16人(うち1人は胎児)のうち、8人が死亡…(数が合ってるかどうか自信がない)。
大姫の世俗離れした不吉な言動が一族の人々の運命の翳りを呼び寄せ、りくの世俗にまみれた強欲さが、一族の未来の安寧を谷底に突き落とした……そんな風にも思えた。
(_ _).。o○
畠山重忠の乱のあと、時政は鎌倉の御家人たちの信頼を失い、義時によって政(まつりごと)の場から締め出されてしまう。
時政は、既に執権としての自分の未来に先がないことを悟っていたようなのに、りくは夫を鎌倉の頂点に立たせるための悪あがきを諦めない。
そんな妻を切り捨てて、保身に走る道もあっただろうに、ドラマの時政はそれを選ばなかった。
りくは実朝を廃して義時たちを討ち、平賀朝雅を鎌倉殿に据えることと、そのために三浦義村を味方に引き入れることを、時政に強く求めた。
それを聞いた時政の心の暗い揺れに、りくは薄々気づいていたようなのに、血を分けた息子や孫に刃を向けなくてはならない夫の苦しみには強引に蓋をさせて、自分の思いだけを見つめさせようとする。
結局、最後までりくの思いに寄り添って、共に破滅する覚悟をしたらしい時政は、自分の血を引く子や孫だけを呼び寄せて、最後の団欒の場を開く。
政子と実衣。
義時と泰時。
時房。
最初のうちは、自分達を呼び寄せた父の思惑が分からず戸惑っていた彼らだけれども、時政が妙な節回しで「オンベレブンビンバ〜」と歌いだすと、それぞれに大姫に教えられた真言を思い出そうとして、記憶を掘り起こしはじめる。
政子「うんだらほんだらげー」
義時「ぴんたらぽんちんがー」
時房「ぴゅりっ」(政子に制止されて最後まで言えない)
実衣「うんたらぷーぽんぱー→うんたらぷーそわかー→うんたらくーそわかー→ぼんたらくーそわかー」
言葉はキツいけど情の深い娘たちと、どちらかというと穏やかで、ちょっとお調子者の息子たち。
まだ嫡男の時宗も生きていて、家族そろって伊豆の北条館で暮らしていた頃の空気が、ほんの一瞬、奇跡的に戻ってきたシーンだった。
その直後、和田義盛邸で余暇を楽しんでいた実朝が、三浦義村によって時政の屋敷に連れ込まれる。
待ち受けていた時政は、実朝に出家するという起請文を書くように強要したけれども、あれこれと言葉を尽くし、泣き脅しをしても、実朝は書こうとしない。
実朝としては、以前時政に騙されて、畠山重忠討伐の下文に署名してしまったことを深く悔やんでいたので、二度と同じ失敗をしないという覚悟だったのだろう。
どうにも言うことを聞かない孫を前にして、時政はとうとう刀を抜いてしまう。
切なくもあたたかな団欒のひとときのあとだけに、この状況は心にこたえるのだけど、このドラマって、こういう風にジェットコースター的に猛烈に上げて落とす展開がすごく多いから、いい加減慣れてきた。(´・ω・`)
それに、史実では義時は父親を殺していない。
頼家親子の死のような、後味最悪な結末にだけはならないだろうから、その意味では、ちょっと安心ではある。
(_ _).。o○
毎度楽しみにしている歴メシネタ。
今回は、久々に食事シーンや食材の映るシーンが豊富だった。
まず、仕事を干されて座り込んでいた時政に、時房が大きな餅を差し入れするシーン。
餅は、野球のボールくらいの大きさだろうか。
ついてから少々時間がたっていたのか、二つ持ってきた餅のうち、少しでも柔らかなほうを父親にあげようとして、時房が餅を執拗に握って揉んで確かめるものだから、時政は「こんなさわりやがって、いらねえよ!」と断ってしまった。
実朝の食事シーン。
鯵の開きっぽい焼き魚を前に逡巡する実朝に、正室の千世(後鳥羽上皇の従姉妹)が、「鎌倉殿はお魚がお好きではないのですか」と声をかける。実朝は「小骨が…」というと、千世は取ってあげようとするのだけど、実朝はお腹がいっぱいだといって、食事を切り上げてしまう。実朝は、まだ千世との間にくつろげるような関係を作れていないようだった。
そんな緊張感のある夫婦関係から逃れるように、実朝は和田義盛の館に通う。
和田の館では、白木の折敷に白い紙を敷いて、炒った大豆っぽいものを盛って、酒の肴にしていたようだ。
その折敷は、長火鉢の縁に置かれていて、いかにも素朴な気取らないもてなしのように見えた。
和田義盛は、上総介広常が頼朝の挙兵に参戦するときに遅参して、頼朝に帰れと言われた時の話を、そっくりそのまま自分の話にすげ替えて、頼朝の胆力を絶賛しつつ、その凄みを見抜いた自分の眼力をも、盛りに盛って調子良く語っていた。
そんなホラ話に付き合わされる場であっても、実朝にとっては、亡き父に思いを馳せつつ、擬似的な家族の団欒に癒されるひとときだったのかもしれない。
政子と千世、義時の後妻(悪妻)ののえが、女子会的に集まって雑談をしているシーンでは、高杯に盛られた菓子が印象的だった。
確認できたのは、
巾着型の菓子
縄を編んだような菓子
棗(推定)
草餅っぽいもの
オレンジ色のドライフルーツ
まず、巾着型の菓子は、「歓喜団」あるいは「団喜」と言う唐菓子だという。
奈良時代に唐から伝来したものだそうで、いまも販売している「亀屋清永」というお店のサイトの記事によると、かなり凝ったレシピのようだ。
「清め」の意味を持つ7種類のお香を練り込んだ「こし餡」を、米粉と小麦粉で作った生地で金袋型に包み、八葉の蓮華を表す八つの結びで閉じて、上質な胡麻油で揚げてあります。
伝来当時は、栗、柿、あんず等の木の実を、かんぞう、あまづら等の薬草で味付けしたらしく、小豆餡を用いるようになったのは徳川中期の後と伝えられています。
Amazonで検索してみたら、プライム・ビデオで「清浄歓喜団の秘密」と言う動画コンテンツが見つかった。見てみたいけど、カンテレドーガCHANNELというサービスにも登録しないといけないようなので、保留。
縄を編んだような形の菓子も唐菓子で、索餅というそうだ。
索餅は、「グレーテルのかまど」で取り上げられたこともあるようで、Amazonプライム・ビデオのNHKオンデマンドのリストの中にも「願いをこめて 七夕のさくべい」というサブタイトルを確認できるのだけど、現在は視聴できないようだ。残念。
「グレーテルのかまど」は、末っ子が小学生のころに時々見ていたので知っていたのだけど、あの番組ですっとぼけたヘンゼル役をしていた青年が、鎌倉殿の13人で北条時房(瀬戸康史)であることに、この記事を書いていて初めて気がついた。
「グレーテルのかまど」の制作チームによる「あの人が愛した、とっておきのスイーツレシピ」という本も出ているようだ。Kindleでチラ見したかったけど、電子本化されていないようだ。
オレンジ色のドライフルーツの正体がわからない。柑橘系かとも思ったけど、ネットでみかけた桃の半生ドライフルーツのほうが似ているようにも思える。
次回はいわゆる牧氏事件のクライマックス、時政の失脚ということで、また荒々しい展開になるのだろうから、歴メシネタはあまり期待しないでおこう。