(盛大にネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください)
シリーズ一作目の「ロボット・イン・ザ・ガーデン」(紙の文庫本)を読了したあと、続きが読みたい気持ちを抑えられず、二作目をKindleでダウンロード。
主人公のベンは、ロボットのタングと、元妻のエイミー、エイミーとの間に生まれた娘のボニーと四人で暮らしている。
そう書くと、性格の著しい不一致で別れた二人が元鞘に収まって、可愛いロボットに赤ん坊まで加わって、夫婦円満な続編のようだけど、そんなに単純な話ではなかった。
話が前後するけど、一作目の「ガーデン」のほうの後半は、いろいろと衝撃的だった。
ロボットのタングを作ったオーガスト・ボリンジャーという人物は、アメリカでとんでもない事件を起こして国外追放された犯罪者だった。彼は、自分の設計した欠陥アンドロイドの引き起こした事故を誤魔化すために、関係したアンドロイドと事実を知る人間を殺戮していたのだ。
本当なら刑務所に入ってしかるべきボリンジャーは、人間の殺戮についてはアンドロイドのせいにして罪をうまく軽減したようで、行動の自由を制限されながら、パラオで隠遁生活を送っていた。
タングの製作者がそんなヤツだとは知らなかった主人公のベンは、タングを修理してもらいたい一心で、困難な旅を続けて、パラオにたどり着く。
ボリンジャーはタングに人格の尊厳など認めず、必要に応じて使い潰すためのAIとしか考えていなかった。タングに人間の子どものように成長して発達する精神を与えたのは、人間に近い資質を与えたほうが高性能のアンドロイドを作れるという信念からで、人と同じ心を持ったAIの苦しみなど配慮する価値もないと思うような人間だった。タングは、そんな人非人のボリンジャーに傷付けられたために、パラオから逃走し、放浪の果てにイギリスのベンの家にたどり着いたのだった。
ボリンジャーの腐った性根を知ったベンは、タングを連れて家に帰ろうとしたけれど、見事に精神を成長させたタングをボリンジャーは手放そうとせず、セキュリティシステムを使ってベンとタングを屋敷に幽閉しようとする。
研究と保身のためには躊躇なく人を殺せるボリンジャーは、ベンを殺害してタングを回収するつもりだったのかもしれないけれども、間抜けなことに、ベンを殴ろうとして暴れるうちに、自分の作ったセキュリティシステムで感電して、勝手に気絶してしまう。
ベンとタングは、屋敷のゴミを回収にきた船に乗せてもらって、無事にパラオを脱出し、イギリスの自宅に帰ってきた。
ここまでの出来事だけでも、小説一冊分のエピソードとしては十分だと思うけど、この後さらベンとタングに驚くような出来事が降りかかる。
モラトリアム三十男のベンに見切りをつけて出ていった元妻エイミーには、その直後に新しい恋人が出来ていたのだけど、数ヶ月ぶりにベンの家を訪れた彼女に向かって、タングが驚くべきことを言う。
「エイミー、いつから心臓の音ふたつになった?」
エイミーは離婚直後に妊娠したため、お腹の子の父親が、今の恋人か、元夫のベンかが、分からないのだという。
エイミーは恋人のロジャーと同棲していたけれど、ロジャーは早々と父親になるつもりはりなかったらしく、産院に付き添うこともなければ、出産準備も全く手伝わない。
一方、タングとの旅で精神的に大人になったベンには、エイミーの子の父親になるだけの覚悟と愛情があった。
結局、産院の付き添いから分娩の立ち合いまで、すべてベンとタングが引き受けることになる。生まれた子どもはベンに髪質がそっくりだった。
エイミーの恋人のロジャーは生まれた子どもとの同居を拒否し、エイミーと赤ん坊は、ベンの家で暮らすことになった。ベンとタングは、力を合わせて子ども部屋まで用意していた。
一度はベンに見切りをつけたエイミーだけれど、離れて暮らす間に、ベンが誰にも言わずに抱えていた内面の孤独と苦しみを、少しずつ理解できるようになっていた。
ベンの両親は冒険心旺盛な人々で、息子の気持ちを顧みることなく無謀な旅行を繰り返し、最期は飛行機事故で亡くなっている。そんな両親に突然置いて逝かれたベンは、悲しみや痛みを自覚することも出来ず、両親の知っている、何をやっても中途半端な息子のまま、両親の遺した家で無為に時間を送っていたのだった。
(_ _).。o○
で、2作目のお話に戻る。
無職だったベンは、タングとの大冒険のあと、獣医師の勉強を再開し、研修医になっていた。
一方、法廷弁護士として活躍していたエイミーは、出産を理由にリストラされてしまう。
夫婦としてやり直すタイミングを逃し続けたまま、和やかではあるものの微妙な同棲関係を続けている彼らの家の庭に、またしてもロボットが現れる。
今度のロボットの名前はジャスミン。タングを作ったボリンジャーというマッドサイエンティストが、タングの居場所を見つけて取り戻すために送り込んできたのだと、ジャスミン本人が説明した。
ジャスミンはベンの家族に危害を加えるようなことはしないものの、タングが暮らすベンの家の所在地を、パラオのボリンジャーの元に送信しているのだという。
ボリンジャーは、かつて引き起こした悪質な事件のために、パラオの外部との連絡を禁じられているらしいのだけど、ジャスミンにはその規制を掻い潜って連絡する手段があるらしい。ただし、ボリンジャーに連絡がつくまでに何年かかるかは分からないのだという。
ボリンジャーの魔の手が、いつタングに襲いかかるか分からないと知ったベンたちは、タングを守るために最前を尽くそうとするものの、思うようには行かず、焦燥に駆られる。
けれども、ボリンジャーの手先であるはずのジャスミンは、ベンの家の人々の様子を庭から観察し続けるうちに、創造主の意思とは別の思いを抱くようになる。
ジャスミンは、人間の幼児のようにワガママいっぱいのタングとは違って、理性的で、常に周囲の人々(ロボットや動物を含む)の安寧を最優先に守ろうとする性格を持っていた。
そんなジャスミンの性質を知ったベンたちは、彼女を家族として家に迎え入れることを決める。
夫婦未満のベンとエイミー、二人の娘のボニー、精神的には幼児レベルだけど家族を思う気持ちの深いタング、いつのまにか創造主よりベンの家族を愛するようになったらしいジャスミン。
五人の生活は、毎日が人騒がせで、波瀾万丈で、つくづく大変そうで……どうにも既視感があるのだ。
うちの長女さんと息子の自閉症キッズがまだ小さくて、末っ子(ADHD)が産まれたばかりの頃の我が家。
うん、似てる。
引き起こされる騒動の感触というか、毛色というか、気配みたいなのが、とっても似ている。
さて、続きを読もう。
八月公開の映画も見に行きたいなあ。
末っ子、付き合ってくれるかな。