お気に入り本棚の10冊目。
白州正子「明恵上人」講談社文芸文庫
奥付に「一九九二年三月一〇日 第一刷発行 一九九四年一〇月二〇日 第六刷発行)とある。
買ったのはたぶん1994年の終わりごろなのだろう。そのころ、明恵上人にちょっと興味を持って、関連書を何冊か手に入れて、和歌を眺めたり、上人が長年書き留めたという夢日記をちらちらと斜め読みしたような記憶が微かにある。
でも歴史音痴だったので、明恵上人が生きた時代についての知識はほとんどなかった。
だから今日、たまたまこの本を手に取って開いたら、こんな文が目に飛び込んできたので、とっても驚いた。
『高弁上人おさなくて北院御室に候はれけり。文覚坊まいりてその小わらはを見て、此児はただ人にあらずと相して、曲げて此ちご文覚に給はりて弟子にし侍らんと申て取てけり』(古今著文集)
文覚坊って、「鎌倉殿の13人」に出てきた、あの猛烈に胡散臭いアレだよね……たしか後白河法皇に頼まれて、平清盛を呪ったとかいう。
明恵上人、アレの弟子だったのか……。
繊細で才気溢れる教養人、徳の高い学僧いうイメージを勝手に抱いていたけど、師匠がアレって……大丈夫だったの?
いやまあ、ドラマの文覚が実物と同じタイプだったかどうかは分からないけど。
白州正子「明恵上人」によれば、明恵は治承四年の頼朝の挙兵で父親を失い、翌年の夏には文覚に「ただ人にあらず」と見込まれ、高雄の寺に入ったのだという。
そして、「夢」を見るようになったという。
高雄に上がったその夜の夢に、死んた乳母が、骨も肉もばらばらになった姿で現れたので、平生罪深い女だったため、このような無残な姿になったのだと、悲しく思い、いよいよ尊い僧になって、彼等の後生を助けてやろうと決心する。
白州正子「明恵上人」 薬師丸
それ、文覚に何かおどろおどろしい話でも聞かされたせいで夢見が悪かったんじゃないのかしらと思ったけど、確かめようもない。
骨も肉もばらばらなのに、何で自分の乳母だと分かったのかというのも気になるところではあるけれども、何にせよ、血生臭い時代の渦の中に生まれ落ち、そういう無残な死が珍しくない環境で育った人なのは間違いない。
(_ _).。o○
蛇足だけど、この本は、Amazonで文庫版が1,210円、中古商品の出品は少ないようで、580円と珍しく高めだった。Kindle化はされていない(2022年4月10日現在)。私の手元の本は定価880円となっている。講談社文芸文庫、値上がりしたのね。買っておいた28年前の自分を褒めよう。そしてちゃんと読もう。