湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

今日の読書・橋本治「ひらがな日本美術史」

 

橋本治「ひらがな日本美術史」6

 

気に入った本ばかり並べている本棚のなかでも、特に気に入っているシリーズ。まだ全部は読めていない。気まぐれに少しづつ拾い読みして、じわりじわりと楽しんでいる。

 

なかなか全部読めずにいるのは、橋本治の文章が、こちらの頭が元気でないと歯が立たないからでもある。

 

頭のよすぎる人が書いたものを読むのは、とても疲れる。一人語りなのにびゅんびゅん話が飛び交って、空中ブランコみたいに論を展開して見せてくれた挙句、結局理屈じゃなくて感覚的な結論を出してきたりするのだから、体力がないとついていけない。

 

でもその感覚的に思える結論が実にしっくりくるのだから、かなわない。

 

今日読んだのは、滝沢馬琴椿説弓張月」のために描かれた、葛飾北斎の挿絵についてのお話。それから、近世から逸脱した北斎が「前近代」的である、というような話になる。

 

椿説弓張月」は、源為朝を主人公とした伝奇小説で、時代的には平安末期、ちょうど「鎌倉殿の13人」の前段階から序盤あたりまでの話ということになる。

 

史実上の源為朝は、暴れまくって伊豆に流されたのに、地元の武士の婿になり、舅そっちのけで勢力を強め、伊豆を支配して年貢も納めないような勢いだったために追討されることになり、嘉応2年(1170年)に、工藤、伊東、北条氏の軍勢に攻められて、30歳そこそこで自害したという。

 

為朝は源義朝の異母兄弟なので、頼朝のおじさんということになる。同じ時期に伊豆に流されていたわけだけど、為朝と義朝は保元の乱で殺し合いをした仲だし、交流は無かったのだろうと思う。

 

身長2メートルを超え、とんでもない強弓で清盛をも脅かし、鬼のように恐れられたという為朝が、もしも頼朝の挙兵の頃にまだ生きていたら、坂東はどうなっていただろうか、などと想像すると面白い。

 

馬琴の「椿説弓張月」の為朝は、伊豆に流された後に脱走し、琉球王国の建国の英雄として大活躍するらしい。

 

保元の乱のあと、讃岐に流されて亡くなった崇徳上皇は、為朝がピンチになると怨霊として登場して助けてくれるのだとか。為朝さん、まるで「ジョジョの奇妙な冒険」のスタンド使いみたいなことになっている。

 

話がそれた。

そんなトンデモ小説の「椿説弓張月」に、葛飾北斎が際どい挿絵を描いていて、それが「ひらがな日本美術史」に取り上げてられている。

 

真っ暗な部屋で、巨猿が若い女性の喉首を噛み切って殺し、着物を剥いで剥き出しにした胸部に足をかけている。その凶行の気配に気づいたらしい別の美女が、襖をあけて、部屋に入ろうとしている。

 

巨猿に殺されたのは青葉という腰元で、部屋にはいろうとしている美女は、のちに為朝の正妻になる白縫姫だという。

 

巨猿が青葉に欲情しているの知った白縫姫が、巨猿を殺そうとしたために巨猿は逃げ出し、報復のために戻ってきて青葉を殺害したという筋書きらしい。そのエピソードだけを切り取った北斎の挿絵を見ると、どんな猟奇変態小説かと思うけれどと、作中ではこのシーンはたいした扱いではなく、巨猿は為朝に射殺されるために都合よく用意された程度の存在らしい。

 

滝沢馬琴は、獣姦的なものへの嗜好を内面に隠しつつも、近世的なモラルに従う立場から、そういうものを作中で前面に出すことはない。けれども北斎は近世モラルそっちのけで、作者が表に出すつもりのないアブノーマルなものまで挿絵にさらけ出してしまう。巨猿の凶行の挿絵は、のちの版ではカットされているという。

 

 

 

(_ _).。o○

 

 

滝沢馬琴といえば、「南総里見八犬伝」ぐらいしか知らなかった。子どものころにNHKで放映されていた、新八犬伝の人形劇が面白かったので、子ども向けに抄訳された本を買ってもらって読んだけれども、馬琴の秘めたる変態性までは読み取れなかった。

 

でも、よく考えてみたら、若い武士たちが「犬」だったり、中には女装している人もいたり……そもそもヒロインの伏姫って、犬と結婚してなぜか処女受胎してるし、なんかいろいろアレな要素がないでもなかった。

 

 

頭が疲れたので、ここで終わる。