末っ子に、「万葉集の美と心」(青木生子著)の最初のところを読んでもらった。
万葉集には「死」を読んだ恋歌が40首以上あるそうで、次の四つに分類できるという。
A 好き過ぎて死にそう(瀕死)
B 好きすぎてキツいから死んだ方がマシ(破滅願望)
C 死にそうだけど逢いたいから死なない(不死身)
D 好きだって死んでもバレたくない(死んデレ?)
(長いのを書き写すのが大変だから分類項目の言葉は砕けた言葉に変えた)
万葉集の「好きすぎて死にそうな歌」はもっと数がありそうに思ったけど、挽歌の印象が強いからか。
好きすぎて死ぬ。
近年の恋愛系創作物では、あまり見かけない状況のような気がする。
演歌や歌謡曲ならありそうなのだけど、私が真っ先に思い出すのは「アカシアの雨がやむとき」(1960年)だから、近年の作品とは言い難い。
それで、歌詞サイトで「恋 死」で検索をかけてみたら、500ほどの楽曲がヒットした。
古い歌が多いのかと思ったら、そうでもないようだ。
たとえばAKB48の「失恋、ありがとう」。
(作詞 秋元康 作曲村上遼)
【MV full】失恋、ありがとう / AKB48 57th Single【公式】 - YouTube
息をするのも苦痛で、生きるの死ぬのと騒いでいたという歌詞は、万葉集の「恋死」以来の伝統を引き継いでいると言えそうだけど、彼女たちはパキパキとキレよく踊りながら、「失恋ありがとう」と明るく歌い上げている。
お化粧もオシャレもばっちり決めていて、涙のあともなく、未来の恋を既に射程に入れている。最期のほうでは「失恋馬鹿野郎」と、未練共々罵っている。
ちっとも死にそうじゃない。
ここまで割り切るのに苦しかったんだろうなというのは察せられるけど、終わった恋に見切りをつせて、元気に生きて行けそうだ。
死にそうじゃないけどSAN値がかなり危なそうな新しい歌も見つけた。
「ラヴ 絶好調DEATH」(2021年)
(作詞、作曲 笛田サオリ)
だいぶ怖い。
女の子っぽい雰囲気だけど、連呼する言葉は、「イキたい やりたい いれたい」って、相手の彼氏、引きそうなんだけど、大丈夫なのか。
もしかしたら、既にドン引きされて跡形もないから、妄想懊悩が「絶好調DEATH」なんだろうか。
上のAKB48の歌を注いで薄めたくなる。
でないとこの人、生霊とかになって彼氏に取り憑きそうだ。
六条御息所が生霊になって出てきて詠んだ歌と、ちょい印象が重なる。
嘆きわび空に乱るるわが魂(たま)を結びとどめよしたがひのつま
「源氏物語」葵
例によってインチキ意訳を試みる。
あああああ貴方貴方貴方貴方貴方あああっ
アナタのところに行きたすぎてイキたすぎてアタクシもう逝ってしまいそうですのよお願いですからアタクシのところへきてぎゅーーっとしてくださいませこの下着の裾をぎゅーーっと貴方貴方貴方あああああっ
上に上げた万葉集の「恋死」4分類には当てはまらないけど、こういうのも、たぶん日本の「恋死」歌の伝統なんだろう。
またいろいろ探してみよう。