長女さんが、家で絵を描くときのインスピレーションの燃料になりそうな本が欲しいという。
退院したばかりの長女さんが人混みを出歩くのは厳しいので、買い物代行を買って出て、運動がてら駅ビルの書店に出かけた。
長女さんのリクエストは、ふんわりファンシーでラブリーな女の子の絵が載っている本だった。
最寄りの駅ビルの書店はそこそこ大きいけれども、文具など、書籍以外の商品スペースが増えたかわりに、以前置いていた画集などの棚が縮小化して、イラスト系の本が消えてしまっている。
それで、アンソロジー系の漫画雑誌から、長女さんのお眼鏡に叶いそうなものを探したのだけど……
該当しそうなのが、この一冊だけだった。
「コミック百合姫 2021年11月号」
百合姫………
かつてBL本を湯水のように読んでいた私だけど、すべてAmazonやブックオフの宅配サービスか、Kindleで購入していたから、ナマの本を手に取ってレジに持って行って買ったことは、ほとんどない。そのあたり、とっても小心者のなのだ。
そして大量の腐女子系蔵書をブックオフに売るときには、濡れ衣要員の末っ子を盾にして、自分は陰にこそこそ隠れていた。結果的に、本を売ったお金の大半は、手伝いと盾役の報酬として末っ子の財布に収まった。
で、百合雑誌である。
BL本の表紙のようなドギツさはない。
シックなデザインだから、書店の中で手に持って歩いても、そんなに目立たないとは思う。
でも、なんというか……ものすごく恥ずかしい(;_;)。
ファンシーともゆるふわとも程遠い見てくれの還暦手前のオバさんが、いそいそとレジに持って行きたい本ではない。BL本とは別種の敷居の高さがある。
末っ子がいるなら有無を言わさず濡れ衣要員に駆り出すけれども(そして小遣いをたっぷりせしめられるのだけれども)、学校にいるから盾にできない。
レジに持って行く勇気が出ないまま逡巡していたら、初老の男性が脇に立ったので、百合雑誌を棚に戻して数歩離れた。
男性が立ち去ったら、改めて勇気を振り絞ろうと思ったのに、なぜか次々と初老の男性がやってきて、入れ替わり立ち替わり百合雑誌のそばで立ち読みを始めるので、なかなか再挑戦のタイミングがつかめない。
おじさんたちは一体何を読んでいるのかと思って、ナナメ後ろからさりげなく覗きこんだところ、どの方も女性週刊誌の皇室の御方のご結婚問題の記事を開くようだった。
この方面のことはうちでは全く話題にならないので、ご結婚が間近なことすら知らなかった。
おじさん世代、そんなにこの話題に興味があるのだろうか。それとも、たまたまそれを読みたいおじさんたちが、同じ書店に集まったのか。
結局15分ほど待って、おじさんが途切れた隙に雑誌「百合姫」を素早く棚から抜き取り、マスクを顔全体に広げる勢いで引き伸ばしてから、レジに向かった。
そうしてようやく手に入れた「コミック百合姫2021年11月号」は、長女さんに大好評だった。
そのうち、こっそり読ませてもらおう。